あなたにオススメのセミナー
遺言書作成を決意するのは「強い思いを抱いている人」
公正証書遺言を作成する人が、この7年ほどで30%ほど作成件数が増加しているにもかかわらず、それでも遺言を残している人は未だ死亡する1割にも満たない。
これには「遺言」という言葉に対するネガティブなイメージがあると思う。
よく家族が遺言者に、または士業が相談客様に対して、「遺言を書いた方がいいのではないですか?」と言うと返ってくる反応は、往々にして下記のようなものだ。
「相続税の対策だよね」
「金持ちが書くものだよね」
なかには、
「俺を殺す気か」
しまいには、
「私は死なない!」
など、これまでの人類の歴史上、誰も成し遂げていないことをおっしゃる方も多い。
対して、遺言を書く必要性を認識している人の遺言作成は驚くほどスムーズに進む。こうしたケースは、
●家族以外(内縁の女性など)に遺贈したい
●どこかの団体などに寄付をしたい
●余命宣告を受けた
●近しい人(両親や配偶者)の相続争いになった、または、争いにならなくても面倒な思いをした
などの方々だ。
弊所で遺言を作成したのも、ほとんどがこうした方で、明るく健康に暮らしながら、ある日突然「遺言を書きたい」と飛び込みの相談をされるケースはほとんどない。
慎ましく暮らしていた男性の死後に、あまりな仕打ち
遺産が300万円でも3億円でも、適応される法律は同じ民法だし、手続きに差異はない。このくらいの相続額でも、「せめて、なにかしらの遺言を書いておけばよかったのに…」と思うケースは、現場で大変に多く遭遇する。
都内の病院で70代の男性Aさんが亡くなった。男性は妻を3年前に亡くしており、夫婦には子どもはいなかった。妻を亡くしたあとは体調を崩しがちで、自宅と入院生活を繰り返すような生活だったようだ。自宅はURの賃貸住宅だ。
Aさんが病院で亡くなったあと、さまざまなところから未払金の請求が発生する。病院からは未払いの入院費、自宅の介護用品のレンタル費用、ご遺体の保管を依頼され火葬を行わざるを得ない葬儀会社など、だ。各社が困り果て、弊所に話が来ることにとなったようだ。
Aさんの生前を知る介護施設の関係者によると、Aさんと亡き妻は海が大好きで、生前はよく海を見に行っていたらしい。3年前に妻を亡くした際は、海にお骨を散骨する「海洋葬」にして弔ったそうだ。最期を看取った介護施設の関係者によれば、この男性の最後の願いは、妻と同じ海に散骨してほしいというものだった。
Aさんの相続財産といえるのは、遺品のなかにあった2行の銀行通帳を見る限り、すべてあわせても200万余りの預金くらいだ。
Aさん夫婦には子どももおらず、当然に両親も亡くなっている。法定相続人としては第三順位にあたる兄弟姉妹になるが、兄弟姉妹がいるかどうか、病院や介護業者では把握できていないことが多い。
こうした方の場合、行政の福祉部門が対応にあたることが多い。行政同士の繋がりや権限により、ある程度の戸籍の調査・収集が可能で、兄弟姉妹の把握もできるからであろう。
もうひとつ問題となるのが、葬儀・火葬費用の負担である。
生活保護を受給している方なら、最低限の火葬の費用は、最後に住んでいた市区町村が支出してくれることが大半だろう。これを「葬祭扶助」といい、生活保護法第18条に定められている。
1 葬祭扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 検案
二 死体の運搬
三 火葬又は埋葬
四 納骨その他葬祭のために必要なもの
2 左に掲げる場合において、その葬祭を行う者があるときは、その者に対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
一 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。
二 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。
Aさんはわずかな年金で慎ましく暮らしており、生活保護受給者ではなかった。
今回のAさんのように、わずかにでも死亡時に銀行預金があり、生活保護を受給していない場合、行政の方でも簡単に葬儀費用を出してくれないのが現状だ。かといって、ご遺体をそのままにしておくわけにも行かないので、葬儀会社がとりあえず火葬せざるを得ない。
概ね20万円強の葬儀・火葬費用について、行政に尋ねると「九州に兄妹がいるようだ。あとはこの人達と話して対応してくれ。この人たちから葬儀費用を出してもらってくれ」との話だった。やむなく筆者の事務所の電話番号を伝えて貰い、先方からの連絡を待つことにした。
*本件は筆者の業務上の経験に基づき記載しております。個人情報保護のため、内容は一部改変を加えております。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】