家賃を滞納するようになった2人暮らしの父子。「強制執行」までの経緯を、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
「しばらくはそっと…」1ヵ月後訪ねると衝撃の結果が
心肺停止だった博さんは、病院で死亡が確認されました。いろいろと手続きもあるだろうし、家主はあまり徹さんを追い詰めるのもと思い、しばらくそっとしておくことにしました。
1ヵ月ほど経ったでしょうか。現地に行ってみると、集合ポストはチラシがぱんぱんで、もはや何も入らない状態です。部屋のドアは少し開いています。呼び鈴を押すと、通電しておらず音は鳴りませんでした。
「日下さん……」
声をかけながらドアをゆっくり開けてみると、室内はゴミの山。この1ヵ月でこうなったとは、とても思えません。博さんが床に臥(ふ)せっていた頃から、室内は乱雑にゴミが溜まっていたのでしょう。
中に徹さんはいないようだったのでドアを閉め、家主は途方に暮れました。ドアに鍵がかかっていないということは、徹さんはどこかに行ってしまったのでしょうか。
「私が突き放しすぎたのかもしれません」
相談に来られた家主は、ひどく落ち込んでいるご様子でした。お父さんが亡くなって息子さん一人になったので、滞納していることだし転居した方がいいと、親心のつもりが、徹さんを追い詰めたと悔やんでいらっしゃいました。
さて、これからどうしましょうか……。
家主は「明け渡しの訴訟手続きをお願いします」と小さな声で呟きました。
駐車場の車もそのままで、埃と黄砂で黒っぽい車がグレーにも見えるとのことでした。早速住民票を取得してみると、徹さんの住所は異動されず、現地のままです。住民登録を残したまま、どこかに行ってしまったのでしょう。部屋のライフラインは、博さんが亡くなる前にすでに未払いで止められていました。
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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