「しばらくはそっと…」1ヵ月後訪ねると衝撃の結果が
心肺停止だった博さんは、病院で死亡が確認されました。いろいろと手続きもあるだろうし、家主はあまり徹さんを追い詰めるのもと思い、しばらくそっとしておくことにしました。
1ヵ月ほど経ったでしょうか。現地に行ってみると、集合ポストはチラシがぱんぱんで、もはや何も入らない状態です。部屋のドアは少し開いています。呼び鈴を押すと、通電しておらず音は鳴りませんでした。
「日下さん……」
声をかけながらドアをゆっくり開けてみると、室内はゴミの山。この1ヵ月でこうなったとは、とても思えません。博さんが床に臥(ふ)せっていた頃から、室内は乱雑にゴミが溜まっていたのでしょう。
中に徹さんはいないようだったのでドアを閉め、家主は途方に暮れました。ドアに鍵がかかっていないということは、徹さんはどこかに行ってしまったのでしょうか。
「私が突き放しすぎたのかもしれません」
相談に来られた家主は、ひどく落ち込んでいるご様子でした。お父さんが亡くなって息子さん一人になったので、滞納していることだし転居した方がいいと、親心のつもりが、徹さんを追い詰めたと悔やんでいらっしゃいました。
さて、これからどうしましょうか……。
家主は「明け渡しの訴訟手続きをお願いします」と小さな声で呟きました。
駐車場の車もそのままで、埃と黄砂で黒っぽい車がグレーにも見えるとのことでした。早速住民票を取得してみると、徹さんの住所は異動されず、現地のままです。住民登録を残したまま、どこかに行ってしまったのでしょう。部屋のライフラインは、博さんが亡くなる前にすでに未払いで止められていました。