家賃を滞納するようになった2人暮らしの父子。「強制執行」までの経緯を、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
同居息子「家主さんからの手紙には気づいていたが…」
それから1ヵ月も経ったでしょうか。アパートの別の住人から、家主に連絡が入りました。
「なんかよく分からないけど、救急車が来ているよ。日下さんのところじゃないかなあ」
慌てて家主がアパートに行ってみると、救急車とパトカーが駐車場に停まっています。サイレンこそ鳴っていませんが赤色回転灯がくるくる回り、住民の方も集まって騒然としていました。問題になっているのは、確かに日下さんの部屋のようです。徹さんがドア付近で、茫然と立ちすくんでいました。
「ここの家主です。何があったのでしょうか?」
近くにいる救急隊員の方に声をかけると、日下さんが心肺停止の状態で見つかったようです。徹さんが朝家を出るときには、言葉を交わした、夕方戻ってきたら息をしていなかった、ということでした。
家主は徹さんのところに駆け寄って、声をかけました。
「大変だったね。心配していたんだよ。お父さん、ずっと体調崩していたの?」
その問いに徹さんは、小さく頷きます。
「仕事行かずよく家で寝ていたけど、でも今朝だって話していたんです。まさかこんなことになるとは……。家主さんからの手紙は分かっていたけれど、ちゃんと払える見込みがなかったので……。すみません」
徹さんはどうやら飲食店のアルバイトを辞めてからも、定職に就いていないようでした。
「これからどうするの? ここの家賃も払えないでしょう? 結構滞納しているよ。安い部屋、探しなよ」
家主の言葉に、徹さんは無言でした。
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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