家主は何度か督促に行くも、いつも二人に会えなかった。(※写真はイメージです/PIXTA)

家賃を滞納するようになった2人暮らしの父子。「強制執行」までの経緯を、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

同居息子「家主さんからの手紙には気づいていたが…」

それから1ヵ月も経ったでしょうか。アパートの別の住人から、家主に連絡が入りました。

 

「なんかよく分からないけど、救急車が来ているよ。日下さんのところじゃないかなあ」

 

慌てて家主がアパートに行ってみると、救急車とパトカーが駐車場に停まっています。サイレンこそ鳴っていませんが赤色回転灯がくるくる回り、住民の方も集まって騒然としていました。問題になっているのは、確かに日下さんの部屋のようです。徹さんがドア付近で、茫然と立ちすくんでいました。

 

「ここの家主です。何があったのでしょうか?」

 

近くにいる救急隊員の方に声をかけると、日下さんが心肺停止の状態で見つかったようです。徹さんが朝家を出るときには、言葉を交わした、夕方戻ってきたら息をしていなかった、ということでした。

 

家主は徹さんのところに駆け寄って、声をかけました。

 

「大変だったね。心配していたんだよ。お父さん、ずっと体調崩していたの?」

 

その問いに徹さんは、小さく頷きます。

 

「仕事行かずよく家で寝ていたけど、でも今朝だって話していたんです。まさかこんなことになるとは……。家主さんからの手紙は分かっていたけれど、ちゃんと払える見込みがなかったので……。すみません」

 

徹さんはどうやら飲食店のアルバイトを辞めてからも、定職に就いていないようでした。

 

「これからどうするの? ここの家賃も払えないでしょう? 結構滞納しているよ。安い部屋、探しなよ」

 

家主の言葉に、徹さんは無言でした。

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老後に住める家がない!

老後に住める家がない!

太田垣 章子

ポプラ社

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