「ゴミだらけ」衝撃の室内…強制執行で見たもの
それから約3ヵ月経った頃、徹さんを相手とする明け渡しの判決は言い渡されました。それをもって部屋と車の強制執行です。
車はタイヤの空気は少なくなり、何ヵ月も動いておらず、主を失ってただの箱のように見えます。室内は、家主が以前に見た光景のまま。この間も、徹さんは戻ってきた様子はありません。
前回は入り口辺りから室内を眺めただけでしたが、執行で入ってみるとゴミは床から何層にも重ねられていました。そのほとんどはコンビニやスーパーで買ったお弁当や総菜の入っていた容器。それ以外にも洋服も入り乱れ、まともに床が見える部分がありません。博さんが寝ていたであろう布団の上にも、ゴミ袋の塊が何個か転がっていました。
博さんは亡くなる前、このゴミをどのような思いで眺めていたのでしょうか。息子の徹さんも、日に日に弱っていくお父さんを前に、少しでも衛生的にとは思わなかったのでしょうか。
結局、荷物が完全に撤去されるまで、徹さんとは連絡が取れないままとなりました。
家主はここまでの滞納賃料や訴訟にかかる費用、強制執行にかかる費用、その全部を負担することになります。その額は軽く100万円を超えていました。
「費用もそうだけど、後味悪いよね。自分が息子さんを追い詰めたとも思っちゃうしね。そして何よりも、中高年になるといつ亡くなってもおかしくないんだなって。貸すことが怖くなるよね。これからはよく考えないと……」
そう言う家主は、代々の地主。もちろんこの費用の痛手は大きいでしょうが、まだもともとの資産から支払うことができました。もし投資家系の家主なら、家賃収入から借り入れの返済をしなければならず、これだけの損失は致命傷になるレベル。
ひと昔前の「家主は金持ち、賃借人は貧乏」という構図は、あまりに現実とかけ離れています。と同時に、高齢者が部屋を借りやすくするためにも、高齢者とその関係者のマナーも求められると感じます。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士