コロナ危機がもたらした100年に1度の衝撃
今回の危機で気づいたのだが、単に時間の流れが加速しただけでなく、100年に一度の“時空の歪み”も発生した。小売りがまるで違う時代にワープする入り口であり、ワープした先にあるのは、新しい社会規範、消費行動、厳しい競争圧力の時代である。そして、これは小売業者に限らず、あらゆる企業が直面する現実なのだ。
将来振り返ってみれば、このパンデミックは進化のターニングポイントだったということがわかるだろう。一部の小売業者にとっては、新たな、ときとして不相応に不穏な規模に拡大するチャンスにもなった。一方、残念ながら適者生存の波に呑まれる企業も出てくる。
だが、果敢に挑む勇気あるブランドにとっては、狭き門とはいえ、生死を決めるほど重要な千載一遇のチャンスでもあったのだ。果敢に挑む勇気とは、消費者に訴求する価値、ビジネスの目的、存在意義などを、刷新しようという気概である。それは、新型コロナウイルスを天変地異と見るだけでなく、いい変化を生む起爆剤と捉える勇気でもある。
その場合、無謀とも思える大胆さがリーダーに求められる。かつてアステカ帝国を征服したスペインのエルナン・コルテスが、自ら乗ってきた船を焼き払って背水の陣を敷いた姿勢にも相通ずるものがある。事実、私たちはもう過去には戻れないのである。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント