高齢者の「家賃滞納」問題。強制執行による立退き当日、賃借人は何を語ったのか。 ※本記事はOAG司法書士法人代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
「家がないみたいです」…警察官が明かした悲しい事情
「建て替えと言うよりは、鮎川さんが長年家賃滞納されていたので、それで裁判をしました。ご退去いただいたのは、法に則って強制執行の手続きですよ」
警察官も「そら、そうですよね……」とため息交じりの回答です。
「定住している家がないみたいです。それで頻繁に万引きしては、署に来て。生活保護とか申請して、住まいとお金を確保してくれるといいのですが、何度言っても役所に行かないんですよね」
警察も老人施設ではないので、警察でご飯を食べるために万引きを繰り返されたら、たまったものじゃないでしょう。万引きをして、警察で取り調べを受け、帰されたとしても、その足で万引きをしてまた警察に連絡があるようです。
行き場がなく、それでいて必要な情報が必要な人に届いていないのか、もしくは本人が「生活保護だけは受けたくない」と思っているのでしょうか。
警察や刑務所が老人施設のようになってきていると聞きます。夜中の110番は「淋しい」という電話も多いとのこと。どのような時間であっても電話に出てくれて、とりあえずは対応してくれる…誰かと繋がりたいと、淋しい思いをしている高齢者の最後の砦なのでしょうか。
「とりあえず最期に関わる前に退去してもらえて、本当に良かった」
そう安堵した家主。民間の家主が、背負う問題ではありません。それでも国の体制も整っていない中で、複雑な思いが残ってしまいます。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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