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母と二人暮らしだった鮎川さん。家賃の滞納額は…
話を聞いてみると、鮎川さんはこの長屋が建てられた時からの賃借人。40m2ほどの部屋に、母親と二人で住んでいました。
お母さんは20年ほど前に亡くなり、以来鮎川さん一人がここで日々過ごしています。おそらく一度も結婚はしていないのでしょう。若い頃にどこで働いていたのか、どんな仕事をしていたのか、家主は知りません。
理由は家主側の世代交代です。5年ほど前の相続で、この不動産を取得したのですが、それまでの対応はすべて先代の家主。管理会社を通さず自主管理だったので、当事者以外は何も分からず、引き継ぎもないまま亡くなってしまいました。
そのため家主は親から不動産を取得し、賃貸人たる地位を承継しながら、契約書に記載されていること以外は何も分からなかったのです。
家主が相続した段階ですでに鮎川さん以外は空室状態だったので、取り壊したいと申し出ましたが「先代の家主さんは、そんなこと言っていなかった。相続で受けたからって、すぐに出ていけとは何たることか」と反論されてそのままになってしまっていました。
敷地に自転車が積まれるようになったのは、それから1、2年経った頃です。
73歳と言えば年金世代ですが、鮎川さん自身がきちんと受給しているのか定かではありません。というのも家賃の支払いがまちまちで、安定的な収入があるとは思えなかったのです。日本の高度成長を支えた世代ですが、年金を納めていなかったのでしょうか。
自転車が増えてくるのと同時に、家賃も払われたり払われなかったり。もしかしたら若干の認知症も、入っていたかもしれません。気が付いたら5万円の家賃のところ、滞納額はすでに70万円を超えていました。
そこで家賃を払っていないことを理由に、建物明け渡しの手続きを進めていくことにしました。