高齢者の「家賃滞納」問題。強制執行による立退き当日、賃借人は何を語ったのか。 ※本記事はOAG司法書士法人代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
「鮎川さんが警察にいるらしい」…まさかの事態が発生
鮎川さんはこちらからの書面を受け取っても、何も言ってきませんでした。私が会いに行っても、不在なのか居留守を使われているのか、一向にコンタクトが取れません。置手紙をしても、事務所に連絡もありませんでした。
この間にも敷地内の自転車は、日に日に増えていっていました。
訴訟の日まであと1週間ほどに迫った頃、家主から「鮎川さんが警察にいるらしい」との連絡が入りました。どうやらスーパーで総菜を万引きしたところを、店員に見つかってしまったようです。
警察から家主に連絡があったのは、家主に「身元引受人になってくれないか」という依頼。家主は訴訟手続きにまでこじれている最中なので「店子であることは間違いないけれど、関わりたくない」と断りました。鮎川さんには、身元引受人になってくれる親族はいなかったということでしょうか。
結局、万引きした商品の代金が少額だったこともあって、鮎川さんは自転車館となった部屋に、何事もなかったかのようにすぐ戻ってきました。
数日後の裁判の日、鮎川さんは自分の言い分を述べる答弁書も出さず、裁判所にも出廷せずで、明け渡しの判決は言い渡されました。このまま明け渡してもらえなければ、強制執行せざるを得ません。何とか任意に明け渡してもらえるよう鮎川さんのところに通いましたが、結局会うことはできませんでした。
そして家主は強制執行することを、選択しました。
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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