男性の約3人に1人、女性の約5人に1人がメタボ予備軍…健康診断で「異常あり」の労働者が増加しているワケ【産業医が解説】

男性の約3人に1人、女性の約5人に1人がメタボ予備軍…健康診断で「異常あり」の労働者が増加しているワケ【産業医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

労働契約法によると、企業には従業員に対して安全配慮義務があるとされており、その一環として健康管理責任があるとされています。労働契約法には、企業が具体的に取り組むべきことは示されていませんが、労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令に示されている具体的措置は、講ずべきとされています。一体どのようなことが求められているのでしょうか? 産業医として企業の健康管理に携わる筆者が解説します。

厚労省が企業に「従業員の健康管理」を求めるワケ

労働安全衛生法では、従業員の健康管理に関わるものとして、メンタルヘルス対策、職場における受動喫煙防止対策、治療と職業生活の両立などが規定されています。

 

厚生労働省は2020年4月に「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を公表しました。これは、労働安全衛生法に規定されている「事業場において事業者が講ずるよう努めるべき労働者の健康の保持増進のための措置(健康保持増進措置)」が適切かつ有効に実施されるよう、原則的な実施方法を定めたものです。

 

企業は、この指針に基づいて、事業場内の産業保健スタッフなどや必要に応じて労働衛生機関、医療保険者または地域資源などの事業場外資源を活用して、健康保持増進措置を実施することが求められています。

 

なお、すべての措置を実施することが難しい場合には、できることから順次、取り組むのが望ましいとされています。

健康診断で「異常あり」と判定される労働者が増加

実際にどんな取り組みが求められているかを指針の内容に沿って見てみましょう。

 

この指針が公表された背景には、定期健康診断を受診した従業員のうち、異常があると判定される人(有所見率)が増加傾向にあることや心疾患及び脳血管疾患の誘因となるメタボリックシンドローム(メタボ)が強く疑われる人が増加していることがあります【図表】。メタボ予備群は、男性の約3人に1人、女性の約5人に1人の割合に達しているといわれます。

 

出典:厚生労働省「定期健康診断結果報告」
【図表】定期健康診断における有所見率の推移 出典:厚生労働省「定期健康診断結果報告」

 

これらは、高年齢労働者の増加や急速な技術革新の進展など社会経済情勢が変化したこと、あるいは労働者の就業意識や働き方が変化したり、業務が質的に変化したりしていることが影響を及ぼしていると考えられています。

 

また、仕事に関して強い不安やストレスを感じている従業員の割合が高い水準で推移しています。こうした従業員の心身の健康問題を解決するには、早い段階から健康教育などの予防対策に取り組むことが重要であると考えられています。

 

従業員の健康の保持増進を図ることは、労働生産性向上の点からも重要だと考えられています。

職場には従業員本人が排除できない「悪因」がある

メタボ予備群は、男性の約3人に1人、女性の約5人に1人の割合に達しているといわれていますが、生活習慣病予備群が生活習慣を改善する効果について、科学的根拠が国際的に蓄積されています。

 

それを受けて、生活習慣病予備群に対する効果的な介入プログラムが開発されてきました。また、メタボの診断基準が示され、内臓脂肪を減らすことが重要であることが分かっています。健康管理やメンタルヘルスケアなど、心身両面にわたる健康指導技術の開発も進んでいます。

 

これらにより、従業員を対象とした健康の保持増進活動が行えるようになっています。従業員の健康の保持増進には、従業員が自ら積極的に取り組むことが重要です。ただ、事業所には、従業員が自分の判断では取り除くことができない疾病増悪要因やストレス要因などが存在しています。

 

よって、従業員の健康を保持増進していくためには、企業が健康管理を積極的に推進していく必要があります。また、単に健康に悪いことを取り除くだけでなく、すべての労働生活を通じて継続的かつ計画的に心身両面にわたる積極的な健康保持増進を目指したものでなければなりません。

従業員の健康の保持増進…具体的に何をするのか?

従業員の健康の保持増進のための具体的措置として、①運動指導、②メンタルヘルスケア、③栄養指導、④口腔保健指導、⑤保健指導等があり、事業所の状況に応じて措置を実施していかなければなりません。

 

さらに、企業は、健康保持増進対策を推進するに当たって、次の3つの項目に注意しなければなりません。

 

【健康保持増進対策における対象の考え方】

健康保持増進措置は、主に「生活習慣上の課題のある従業員向け」と、「生活習慣上の課題の有無に関わらない従業員全体向け」があります。企業は、2種類の措置の特徴を把握した上で効果的に組み合わせて健康保持増進対策に取り組むことが望ましいとされています。

 

【従業員の積極的な参加を促すための取り組み】

従業員の中には、健康増進に関心をもたない人もいます。このような従業員にも抵抗なく健康保持増進に取り組んでもらうことが重要です。そのためには、従業員の行動が無意識のうちに変化する環境づくりやスポーツなど、楽しみながら参加できる仕組みづくりも必要です。

 

こうした活動を通じて、企業は従業員が健康保持増進に取り組む文化や風土を醸成していくことが望ましいのです。

 

【従業員の高齢化を見据えた取り組み】

従業員が高年齢期を迎えても仕事を続けるには、心身両面の健康が維持されていなければなりません。年齢とともに筋量などが低下する中で健康状態の悪化を防ぐには、若年期からの運動の習慣化などが有効です。

 

健康保持増進措置を検討する際には、このような視点を盛り込むことが望ましいのです。

健康保持増進対策を進めるための「基本」のキ

企業は健康保持増進対策を中長期的視点で継続的かつ計画的に行うため、次の項目に沿って取り組んでいく必要があります。

 

また、健康保持増進対策の推進では、企業が従業員などの意見を聞きながら事業場の実態に合った取り組みをするため、労使、産業医、衛生管理者などで構成される衛生委員会などを活用して、次の項目に取り組み、内容について関係者に周知することが必要です。

 

なお、衛生委員会等の設置義務のない小規模事業者でも従業員などの意見が反映されるようにすることが必要です。

 

健康保持増進対策の推進は、事業場単位だけでなく、企業単位で取り組むことも考えられます。

 

《健康保持増進方針の表明》

企業は、健康保持増進方針を表明するものとします。健康保持増進方針は、事業場における従業員の健康の保持増進を図るための基本的な考え方を示すものであり、次の事項を含むものとします。

 

●企業が健康保持増進を積極的に支援すること

●従業員の健康の保持増進を図ること

●従業員の協力のもとに、健康保持増進対策を実施すること

●健康保持増進措置を適切に実施すること

 

《推進体制の確立》

企業は、事業場内の健康保持増進対策を推進するため、その実施体制を確立するものとします。

 

《課題の把握》

企業は、事業場における労働者の健康の保持増進に関する課題等を把握し、健康保持増進対策を推進するスタッフ等の専門的な知見も踏まえ、健康保持増進措置を検討するものとします。なお、課題の把握に当たっては、労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を活用することが望ましいでしょう。

 

《健康保持増進目標の設定》

企業は、健康保持増進方針に基づき、把握した課題や過去の目標の達成状況を踏まえ、健康保持増進目標を設定し、当該目標において一定期間に達成すべき到達点を明らかにします。また、健康保持増進対策は、中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行われるようにする必要があることから、目標においても中長期的な指標を設定し、その達成のために計画を進めていくことが望ましいでしょう。

 

《健康保持増進措置の決定》

企業は、表明した健康保持増進方針、把握した課題及び設定した健康保持増進目標を踏まえ、事業場の実情も踏まえつつ、健康保持増進措置を決定します。

 

《健康保持増進計画の作成》

企業は、健康保持増進目標を達成するため、健康保持増進計画を作成するものとします。健康保持増進計画は、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けることが望ましいでしょう。健康保持増進計画は具体的な実施事項、日程等について定めるものであり、次の事項を含むものとします。

 

●健康保持増進措置の内容及び実施時期に関する事項

●健康保持増進計画の期間に関する事項

●健康保持増進計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関する事項

 

《健康保持増進計画の実施》

企業は、健康保持増進計画を適切かつ継続的に実施するものとします。また、健康保持増進計画を適切かつ継続的に実施するために必要な留意すべき事項を定めるものとします。

 

《実施結果の評価》

企業は、事業場における健康保持増進対策を、継続的かつ計画的に推進していくため、当該対策の実施結果などを評価し、新たな目標や措置等に反映させることで今後の取り組みを見直すものとします。

 

 

富田 崇由

セイルズ産業医事務所

 

 

 

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※本連載は、富田崇由氏の著書『なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

富田 崇由

幻冬舎メディアコンサルティング

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