(※写真はイメージです/PIXTA)

厚労省によると、企業におけるメンタルヘルス対策では、4つのケアが計画的かつ継続的に行われることが重要とされています。4つとは①従業員本人による「セルフケア」、②管理監督者の「ラインによるケア」、③産業医などの「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、④専門知識を有する各種外部機関を利用した「事業場外資源によるケア」のこと。なぜこれだけ手厚いアプローチが必要なのか、実際のメンタル不調の事例から見ていきましょう。セイルズ産業医事務所の富田崇由医師が解説します。

厚労省が定めた「企業のメンタルヘルス対策」の指針

厚生労働省が2020年4月に公表した「事業場における労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、小規模事業者(従業員数20人以下)での取り組みについても触れられています。小規模事業者では経営者がメンタルヘルスケア実施の表明をし、セルフケア、ラインによるケアを中心に、実施可能なところから着実に取り組みをすることが望ましいとされています。

 

また、産業医、衛生管理者、労働安全衛生担当者など、必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない場合、衛生推進者または安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任し、地域産業保健センターなどの事業場外資源の支援を積極的に活用することが有効であるとされています。

 

従業員がメンタル不調に陥るケースにはどのような事例があるのか、厚生労働省の「こころの耳」に掲載された事例を見てみましょう。

 

月100~200時間の残業が続き、重度のうつ病を発症

長時間労働によりうつ病にかかり自殺未遂したエンジニアAさんの事例です。Aさんは38歳男性でプロジェクトリーダーの立場にありました。真面目で後輩の面倒見が良く、争いごとを好まない責任感が強い性格でした。

 

Aさんは35歳のときに異動でシステムエンジニアになりました。その後、プロジェクトリーダーに昇格します。昇格直後より職場環境は悪かったようです。不況の影響を受けて、過重労働を強いられ、リストラ、社内再編で退職する部下や病欠する部下が多く見られたそうです。

 

にもかかわらず、人員の補充はありませんでした。加えて、自分のプロジェクト以外の複数のプロジェクトにも関わるようになりました。

 

そのため、帰宅時間は毎日24時を回り、睡眠時間は3~4時間になりました。土日も出勤です。Aさんは部下の長時間残業は厳しく管理していましたが、自らは管理職であるため管理されることはなく、1ヵ月の残業時間は100~200時間の状態が続きました。

 

昇格から3ヵ月後には、意欲や集中力が低下し、頭の回転の悪さを自分で感じるようになりました。身体的にも頭痛や肩こり、異常な発汗、食欲低下、体重減少などがあったようです。休日は一日中寝て過ごしましたが、疲労は回復しません。

 

さらに昇格から5ヵ月後には、毎日がむなしく将来に対して悲観的な考えをもつようになったそうです。作業効率は落ち、部下への指示も十分に伝えられなくなりました。

 

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※本連載は、富田崇由氏の著書『なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

富田 崇由

幻冬舎メディアコンサルティング

小規模事業者が頭を悩ます問題――深刻化する人材不足、それに追い打ちをかける社員の体調不良やメンタル不調…。「社員の病気」は会社の経営を脅かす。 小規模事業者にとっては、社員の一人ひとりが貴重な戦力だ。そんなな…

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