(※写真はイメージです/PIXTA)

家庭よりも仕事、残業は当たり前。果てには「過労死(Karoshi)」という日本語がそのまま英語辞書に載ってしまうなど、日本人にはとにかく働き者というイメージがあります。ところが、それだけ「仕事命」な働きぶりを発揮しているにも関わらず、仕事に悩む人が絶えません。一体なぜなのでしょうか? 世界的な意識調査から、日本人の本音を探ります。※本記事は、谷本真由美氏の著書『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

「仕事命」と思いきや…世界的調査が示す日本人の本音

日本の働く人々は、働き方に悩んでいます。その悩み方は、大恐慌の嵐が吹き荒れた1930年代よりも深刻です。多くの人は悩みや怒りの矛先を自分に向けて、健康を害したり、自傷行為に及んだり、最悪の場合は自殺してしまいます。

 

ところで、そもそも人間は働くことが嫌いです。そんなふうに働くことに悩んでいる日本人は、実は他の国の人々よりも仕事が嫌いです。そんな日本人の「真意」を知るには、不特定多数の人々が参加した、意識調査の結果を見るとよくわかります。

 

各国の社会科学の研究者が参考にする、学術的仮説を様々な国の調査データから証明するために始めた「世界価値観調査」(World Values Surveys)があります。それは、世界100ヵ国以上の人々に対して調査を実施しています。

 

1981年から実施されているこの調査が大変ユニークなのは、様々な国の人に対して「何々をどう思いますか?」という同じ質問を、数年間にわたって行っていることです。年ごとの違いや、国による違い、地域による違いがよくわかります。

 

「仕事」に関しても様々な調査が実施されていますが、図表1は、2014年度版の「生活における余暇の重要性」という、質問に対する各国の回答です。

 

http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成
[図表1]生活における余暇の重要性(2014年) http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成

 

日本の場合、42.3%の人が「大変重要」と答え、「まあ重要」の人も含めると、余暇が重要と考える人は、88.4%です。

 

一方、アメリカの場合、「大変重要」と答えた人は38.9%であり、「まあ重要」と答えた人も含めると、余暇を重要と考える人は90.5%です。スウェーデンは、53.6%、スペインは44.8%が「大変重要」と考えており、日本に近くなっています。

 

「仕事命なのではないか?」と思われる日本人の方が、アメリカ人よりも余暇が大変重要と考える人が多く、労働時間が短く休暇の長い、スペインやスウェーデンの人たちに近い、という結果です。新興国であるインド、ロシア、中国は、先進国に比べ、余暇を重視しない人が多いようです。

理想は「成熟した国」の働き方だが、実態は新興国並み

同年度の調査の「生活における仕事の重要性」(図表2)という質問に対する回答を見てみましょう。この結果が面白いのは、余暇が重要だと答えている国の人々は、仕事も重要だと考えている点です。ただし、スウェーデンやスペインは、日本に比べると、労働時間がはるかに短く、休暇も長いです。

 

http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成
[図表2]生活における仕事の重要性(2014年) http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成

 

彼らは重要だと考える余暇を、長い休暇や、仕事の後の私生活の時間を使って楽しむことが可能です。日本人は、考え方自体は成熟した西欧州の国の人々に近いにもかかわらず、相変わらず労働時間が長く、長期休暇をほとんど取ることができません。つまり、本当は、成熟した国のような生活をしたいのに、働き方は、インド、ロシア、中国などの新興国に近いわけです。

好景気でも不景気でも「仕事嫌いな日本人」は減らない

さらに面白いのが、1990年と2014年の日本の回答の比較です(図表3)。

 

http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成
[図表3]生活における仕事の重要性(日本) http://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp から筆者作成

 

1990年は「それほど重要ではない」という回答項目がなかったので、仕事が「それほど重要ではない」と思う人は「全く重要ではない」と回答している可能性が高いのですが、それを考慮したとしても、1990年の日本では、仕事が「全く重要ではない」と考えていた人が、13.2%もいます。2014年の日本では「それほど重要ではない」と考える人と、「全く重要ではない」と考える人を足しても、10.3%です。つまり、景気が良かろうが悪かろうが、日本人で仕事があまり重要ではないと考える人の比率はそう変わらないのです。

 

バブル崩壊直後で、今よりもまだまだ景気も良く、未来への希望もあり、非正規雇用の人もはるかに少なかった頃の方が、「仕事は重要ではない」と考えている人が多いのは、大変興味深いという他ありません。日本人は、給料が増える見込みがあり、先行きが明るくても、実は、仕事自体に期待はしておらず、楽しんでもいなかったのでしょう。

 

2014年の日本では、仕事が重要だと答える人が増えていますが、それは、将来への不安や、生活を支えるという点で「重要だ」と答えているのかもしれません。

 

つまり、仕事そのものではなく、生活のために重要だ、と答えているのにすぎないのでしょう。日本で自分の心を奮い立たせるような、まるでドラッグのような内容の自己啓発本や、仕事に関する本がやたらと売れるのは、「嫌いだがやらざるを得ない仕事」をなんとかこなすための、カンフル剤なのかもしれません。

 

この調査の結果や、日本人の働き方を考えると、日本人は「本当は遊びの方が人生においてすごく大事だし、人生はお金や仕事だけではない。本当なら遊んでいたいが、仕事は重要なので、嫌だがやらざるを得ない」と考えていると推測できるかもしれません。

 

つまり、仕事自体を楽しんでいるのではなく、生活や、家族、世間からのピアプレッシャー(同調圧力)のために、イヤイヤやっているにすぎないのかもしれません。周囲からの圧力や、「期待される義務感」で、自分を騙(だま)し騙し働いているので、仕事が嫌だなあ、どうしたら嫌じゃなくなるかなあ、と悩んでいる人が多いのです。

 

 

谷本 真由美

公認情報システム監査人(CISA)

日本人が知らない世界標準の働き方

日本人が知らない世界標準の働き方

谷本 真由美

PHP研究所

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