日本人が仕事に不満を抱く理由は「生産性の低さ」
日本企業における最大の問題は、年功序列と終身雇用により、生産性が低くなっていることです。生産性が低いとは、企業が投入する資源(お金、時間、人)に対して生み出されるお金が少ないという意味です。
労働生産性というのは、生産量(GDP)を、総労働者数もしくは総労働時間で割ったものです。
【労働生産性=生産量(GDP)/総労働者数もしくは総労働時間】
2019年(暦年ベース)の日本の就業者1人当たりの労働生産性は8万1183ドル(1ドル=105円換算で約852万円)、OECD加盟37ヵ国の中では第26位となっています。これは1970年以降でもっとも低い順位です【図表】。
また、北欧諸国や米国とはかなりの差があり、どちらかというと、東欧であるスロベニアやチェコの生産性に近いのです。またイタリアやカナダよりも低いという結果になっています。就業1時間当たりの日本の労働生産性は47,9ドル(約5030円)で、加盟37ヵ国の中では第21位となっています。
カリフォルニア大学バークレー校のパンペル教授は、日本企業は年齢の高い社員の雇用を保障しているために、生産性が低くなっていると指摘しています。
つまり生産性の低い従業員に高い給料を払っているので、十分なアウトプットが生み出されないのです。そのような生産性の低さを、働いている人々は日々の仕事で感じているからこそ、仕事に不満を持つというわけです。
日本では「専門知識のない素人社員」に仕事を振るが…
日本企業の多くは、特定のスキルを持ったプロではなく、素人に仕事をさせることがあります。学びながらなんとか仕事をやってくれ、とすることがあります。これが、かなり名前の知れた大企業であっても、往々にして行われているのが、海外の先進国の人々に驚かれる点です。
さらに、外部の独立コンサルタントや、契約社員と直接契約して、高い報酬を支払う文化がないので、外からその道の専門家を連れてこないで、内部の人でなんとか仕事をこなそうとするところがあります。日本以外の先進国だと、社内に人材がいなければ、外部の専門家を市場レートで雇用して仕事を回すことが当たり前です。
特に、知識が高度化している業界だと、社内の素人に仕事を割り振っても、良い結果が出ることはありませんし、下手をしたら会社に大損害が発生してしまいます。
例えば、私が実際に目にした例は、商品の営業をしていた人が大規模システムの開発プログラマーの管理者になる、自動車部品の開発をしていた人が顧客サービスを担当する、学生の授業登録事務をしていた人が大学の国際広報業務を担当する、海外で働いたことが一度もなく、英語すらできない人が、海外業務の統括をする、などです。
「素人でも慣れればできる」という考えこそ不幸の元凶
どの例も、仕事を割り振られた人は、その業務での経験が一切なく、学生時代にその分野の仕事の下地になることを学んだことがあるわけではありません。これが、例えば北米やイギリスの、ある程度の規模の企業や大学であったら、その人をトレーニングに送るか、外部から専門家を雇用するのが当たり前ですが、日本の組織は、やればなんとかなる、と仕事を振ってしまうことがあります。
しかし、例えばプログラマーの統括は、実務経験のある人でなければ大失敗するのが目に見えていますし、開発者になる人はコミュニケーションが不得手なので、営業的な仕事を避けていた可能性があります。
日本の景気が良かった1970〜80年代であれば、従業員に様々な経験を積ませ、不得手な仕事でも現場で慣れればなんとかなる、という考えが通用したのかもしれませんが、現在は、各仕事の専門性が、昔に比べるとはるかに高まっている上に、高度化もしているので、「慣れればなんとかなる」という考えは、効率の点から見て好ましくありませんし、学ぶのを待っていては業務のスピードも追いつきません。会社の業績も上がりませんし、専門外の業務を振られて従業員本人も苦しみます。会社も従業員も不幸にする仕事のやり方がまかり通っているので、日本の会社では悩む人が減らないのです。
谷本 真由美
公認情報システム監査人(CISA)