就職氷河期は、2020年より「ノホホンとしていた」
過去のビジネス書のベストセラーを見ると、日本人が「仕事」を心配するように変遷してきた様子がはっきりとわかります。例えば、日本の景気が悪化して就職氷河期だった1997年のビジネス書ベストセラーを見てみましょう(図表1)。
まず、堺屋太一氏の『「次」はこうなる』や、日下公人氏の『これからの10年』、日本経済新聞社編の『2020年からの警鐘(1・2)』といった、将来を予測し、世界の潮流を俯瞰(ふかん)する本がランキングに入っています。
今のベストセラーに比べると、まだ、将来に備えてなんとか頑張ろう、という気力がある人が多かったのかもしれません。こういう未来予測本に書いてあることは、今と比べてどうなのか、実証してみると面白いかもしれません。
仕事のノウハウを書いた本も、最近のベストセラーよりも包括的です。例えば、長谷川慶太郎氏の『情報力』は、効率的な情報管理の方法を伝える本です。2020年のベストセラー『人は話し方が9割』や『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる「繊細さん」の本』などに比べると、「今すぐどうにかしたい」という切羽詰まった感じがありません。
バブルが崩壊して10年ほど経っていましたが、この頃は、まだまだ日本経済は復活すると、ノホホンとしていた人が少なくなかったのでしょう。
世界情勢や経済が売れた…バブル崩壊時は意外と前向き
バブル崩壊直後、1990年のビジネス書ベストセラーを見ると、もっと面白いことがわかります(図表2)。
1990年というのは、世界はまだソ連の崩壊や天安門事件の衝撃がリアルタイムで、日本ではバブル崩壊が始まった頃です。ビジネス書のランキングなのにもかかわらず、『日はまた沈む』『国際情報 Just Now』『1990’s 世界はこう動く』『1990年版 長谷川慶太郎の世界はこう変わる』『全予測90年代の世界』など、世界情勢の動きを予想する本がランクインしていることに驚かされます。
アルビン・トフラー氏の大ベストセラーである『パワーシフト(上・下)』もランクインしています。この書籍は、世界の権力が、物理的な物やお金から、知識へ移行していくと予測したものですが、今読むと、その予測が当たっていることに驚かされます。政治や歴史の流れをダイナミックにとらえた書籍が売れていたのです。
ベストセラーに、落合信彦氏の著作が2冊も入っていること、長谷川慶太郎氏や堺屋太一氏が入っていることにも注目すべきでしょう。当時は、耳当たりの良いことを言う人々ではなく、「世界的に活躍していそうな人」や「経済学や実務の世界で、実績がある人」がオピニオンリーダーだったのです。
このように、バブル崩壊時の売れ筋ビジネス書は、仕事術や自己啓発ばかりの今とは随分違います。このうち何冊かは、歴史や世界情勢の基本的な知識がなければ理解が難しく、文字数も多い書籍です。今のような大きな文字で、スカスカの内容のビジネス書と比べると、大人が読む本と、中学生が読む本程度の開きがあります。