「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。
なぜ?「有名大卒、大手企業就職、世田谷住み」夫が…
「いらっしゃったのですね。裁判所です。相馬さんですか?」
ドアの向こう側に、数人の男性が見えました。差し出された名刺を見ると、地方裁判所の執行官と書かれています。
「相馬一人さんが家賃を払っていらっしゃらないからね、強制執行で来ました。奥さんですか? ちょっと中に入っていいですか?」
執行官と名乗る人が何を言っているのか、理解できませんでした。家賃を払ってない? 何のこと? 頭がパニックになって、執行官と名乗る人の説明も頭に入ってきません。部屋の壁に1枚の紙が貼られましたが、それすら意味が分かりません。とにかく一人に電話しなきゃ…。涙声で、うまく喋れません。
一人さんから「家に戻ったら説明する」と言われ、そこで初めてこれが現実のことだと知ったのです。
賃借人である相馬一人さん(30歳)は、消え入るような声で語ります。
「妻にはどうしても言いだせなかったんです」
一人さんは有名私立大学を卒業後、大手の広告代理店に就職。年収は同世代の中でも良い方で、28歳にしてすでに日本の平均年収を軽く超えていました。
学生時代から付き合った理香さんと25歳で結婚し、すでに5年。娘も生まれました。世田谷にある家賃18万円超えの部屋に住み、傍から見ても幸せな家族だったに違いありません。
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳で生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年に司法書士試験合格。2006年に独立、2012年に事務所を東京へ移転し、2024年5月よりコンサルティングと情報発信を軸に現職へ。家主側の訴訟代理人として家賃滞納の明け渡し手続きを延べ3,000件近く担当し、現場重視で滞納者の再出発にも伴走する“賃貸トラブル解決のパイオニア”として知られる。「住まいは生きる基盤」を掲げ、“人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活”を提言。全国賃貸住宅新聞での長期連載をはじめ、現代ビジネスなど各種媒体に寄稿し、年間60回超・累計700回超の講演で実務と制度の接点をわかりやすく伝えている。著書に『家賃滞納という貧困』、『老後に住める家がない!』、『不動産大異変』、『あなたが独りで倒れて困ること30』(すべてポプラ社)、『死に方のダンドリ』(共著、ポプラ社)などがある。
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