(※写真はイメージです/PIXTA)

「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

妻の反対を押し切った「甘い見通し」

坂道を転がり落ちるきっかけは、起業でした。仕事が楽しくて仕方がなくなった頃、40代で年の半分を海外で過ごす、そんな人の記事を目にしました。パソコン1台でどこででも仕事ができる。不動産投資や株投資で、不労所得もある。そんな内容でした。株や不動産が稼いでくれるなら、仮に年金が入らなくなったとしても、心配することはありません。

 

こんなカッコいい人もいるのだ、と衝撃でした。会社は大手で安定していたけれど、自分がぬるま湯に浸かっている気がしました。もっと刺激的な生活をしたい、もっと稼ぎたい、そのためにはここから飛び出そう、そう夢見た結果の独立でした。

 

今なら、もっと準備期間を取るべきだったとわかります。でもその時は、ただただ記事に刺激され、一日でも早く勝負の世界に出たいと現実が見えていませんでした。理香さんはサラリーマン家庭に育ったので、もともと起業には反対でした。

 

それでも反対を押し切って、29歳のときに独立起業。

 

売り上げの目途は立っていました。サラリーマン時代に担当したクライアントも、独立したら仕事を任せてくれると言ってくれたので安心していました。

「順調すぎるほど順調にきた人生」の分岐点

でもこれが甘い見通しでした。

 

蓋を開けてみたら、誰も仕事の依頼などしてくれません。クライアントは自分を評価していたのではなく、大手の会社の一社員として付き合っていた、そう初めて気がつきました。今まで順調すぎるほど順調にきた人生の、初めて裏路地に繋がる分岐点でした。

 

仕事がなければ、お金は入ってきません。理香さんに心配をかけたくなかったので、サラリーマン時代と同じ額の生活費を渡しました。家賃と合わせても、月30万円以上が貯金から減っていきました。

 

理香さんに生活を切り詰めてなんて、絶対に言えませんでした。

 

生活以外にレンタルオフィスの家賃や経費、資本金に準備した100万円もあっという間に消えていきました。自分で会社をやっていますと言いながら、仕事もなく、頭の中はいつも貯金の残額を計算していました。

 

ようやく起業後半年ほどで、小さな仕事がぽろぽろ入ってき始めましたが、ひと月の生活費を補うにはほど遠く、消費者金融から足りない分を借りるようになりました。もう下ろす貯金も、ほとんどありません。

 

これが坂道を転がり落ちる二つ目の分岐点だったのでしょう。

 

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家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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