「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

41歳男性…父親に「家賃を肩代わり」させていたワケ

「もう本人も40歳を過ぎているのだから、自分で払ってもらわないと。今まで何千万円分も払ってきたんだ。もう払いきれません」

 

連帯保証人の木村慎之介さんの言葉です。歳は70歳。41歳になる息子の哲郎さんが家賃を払わないので、何年も代わりに払ってきました。

 

哲郎さんは、もう20年近くこの部屋に住んでいます。会社勤めをしていた頃は、家賃もきちんと支払われていたのですが27歳で起業し、掃除やマット交換の代理店を始めてから事態は暗転。経営が上手くいかず、家賃も滞納しがちになっていったのです。

 

連帯保証人が10年以上も賃借人に代わって家賃を払い続けるというのは、かなり稀なケースですが、慎之介さんに督促すればすぐに払ってもらえたので、家主も敢えて別の手を打ってきませんでした。その結果、慎之介さんが肩代わりした金額はすでに1500万円を超えていました。

 

ところが突然、その連帯保証人から支払いを拒否されたため、家主は明け渡しの手続きに乗り出しました。その状況になっても哲郎さんは、自分では払おうとはせず、督促に行った担当者にも、「親父に払ってもらえ」と悪態をつくだけでした。

 

そもそも連帯保証人というだけで、なぜこんなに長期間支払い続けたのだろう? そんな疑問を抱いた私は、慎之介さんに連絡をとってみたのです。

 

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お願いですから、もうあいつを追い出してください。もう私の手には負えません。あいつは子どもの頃から成績も悪く、何をやってもダメな子だったんです。地元の学校に進学されてはあの子のレベルが知られてしまうので、東京の大学に行ってくれて助かりました。名もない学校でも「東京の大学に行っています」と言えますから。

 

やっと就職したと思ったら、競艇に手を出して。収入はあるはずなのに、いつもお金を無心してきたんです。いったいどれだけお金を送ったことか、もう覚えていません。

 

それなのにいきなり脱サラすると言い出して。そのときも1000万円ほど用立てました。うまくいってるのかと聞くと、「うるさい」って怒鳴るので、何も聞けません。

 

ここ数年は、毎月のように家賃の督促が私の方にあって、仕方がないのでずっと払ってきました。でも、もう私も限界です。これまで哲郎に何千万も持っていかれているんですよ。もう年金生活なんです、勘弁して欲しいです。

 

ここ最近、哲郎とは連絡もつきません。何通手紙を送っても音沙汰なしです。私は体力的に東京まではもう行かれませんから、哲郎の姉を行かせてみたんです。そうしたら哲郎に殴られたって、泣いて九州に戻ってきました。もう私たち家族では、手に負えません。

 

あの子さえいなければ、我が家はとても平穏なのです。哲郎がいるから、私たちは安心して寝ることもできない。どこか消えてくれればいいのに、本気でそう思います。

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家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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