本ニューズレターは、2021年7月1日までに入手した情報に基づいて執筆しております。
1.UAEにおける外資規制
多くの外国企業が中東統括拠点を置くアラブ首長国連邦(以下「UAE」と言います)ですが、UAEでは、商事会社法に基づく外資規制により、会社持分の51%以上をUAE人が保有する必要がありました。また、外国企業の支店の場合には、UAE人又は100%UAE人保有の法人を、支店のライセンスの更新や従業員のビザの取得、更新業務に関する現地代理人(National Service Agent)として選任しなければなりませんでした。
UAE、特にドバイ首長国には、外資規制の適用を受けないフリーゾーンと呼ばれるエリアが多数存在し、日本企業を含む外国企業の多くは、フリーゾーンに拠点を構えていますが、フリーゾーン法人は、UAE国内での事業を当該フリーゾーン内でしか行えないという問題があります。
そのため、当該フリーゾーン外の場所で事業を行いたい外国企業にとっては、フリーゾーンは十分ではなく、外資規制の撤廃が望まれる状況でした。
UAEでは、ここ数年、外資規制の緩和の流れにありましたが※1、2020年9月の商事会社法の改正※2(以下「2020年商事会社法改正」と言います)により、突如、外資規制が原則撤廃され、また外国法人の支店に必要だった現地代理人も不要とされました。
※1 UAEにおける外資規制緩和の動向につき、N&Aアジアニューズレター2019年7月22日号「アラブ首長国連邦:外資規制緩和の動向~ポジティブリストの公表~」、同2019年1月号「UAEにおける外資規制一部撤廃の動き」、同2018年1月号「アラブ首長国連邦における外資規制緩和の動向」各ご参照。
※2 但し、報道により、一般に明らかになったのは2020年11月後半でした。
2.UAEにおける外資規制緩和
多くの外国企業を誘致し、中東地域のビジネスハブとしての地位を確固たるものにしたいUAEとしては、外資規制撤廃の動機がある一方、UAE現地法人設立に必要な51%の現地出資者や支店設立に必要な現地代理人について、対価を得て、名義貸しを行うことで、安定的な収入を得ている現地人が多数存在するため、そうした国民の反対は根強いものでした。そのため、外資規制撤廃が期待されていた2015年の商事会社法の全面改正時には、国民評議会(Federal National Council)の反対で、外資規制の緩和は見送られました。
しかし、絶対君主制下のUAEにおける連邦法に関する立法権は、7つの首長国の首長から成る最高評議会(Federal Supreme Council)が有しており、国民評議会は一種の諮問機関にすぎないため、国民の反対があるとしても、立法は可能です。その後、2017年9月に国民評議会を経ない商事会社法の改正により、内閣が外国資本による全部又は大部分の持分保有が認められる事業分野と会社形態を決定できるとされて、外資規制の緩和の途が開かれ、また2018年9月、同様に国民評議会を経ずに外国直接投資法が制定され、2017年の商事会社法改正によって定められた内閣の決定権の枠組みが定められました。
さらに、2020年3月17日に、外資規制緩和分野を列挙するポジティブリストと、業種毎の設立要件を定めた内閣決定が発出され、ポジティブリスト掲載分野に関する外資100%の運用が開始されていました。
外資規制の緩和は、外国直接投資法に基づき順調に行われているかに見えましたが、そうした中、2020年9月の商事会社法改正により外資規制が撤廃され、また、外国直接投資法も廃止されることになりました※3。
※3 このようにUAEを含む湾岸諸国では、王政であることにも起因して、予想ができない立法方針の変更があるという問題があります。長らく待望されていた外国直接投資法がようやく2018年に制定された後、再び待望された同法に基づくポジティブリストがようやく2020年3月に出て、運用が開始されていたにもかかわらず、外国直接投資法が廃止されることになるとは、通常予想し難い流れです。