近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて

~キャリード・インタレストに関する税務上の取扱いの明確化、海外投資家等特例業務・移行期間特例業務の創設を中心に~

近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて
※写真はイメージです/PIXTA

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2021/7/5号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2021年7月5日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

一 国際金融センターに向けた取組み

現在、政府は、世界に開かれた国際金融センターとしての日本の地位を確立することを目指すと宣言し、海外の資産運用業者等の参入促進を中心として、日本の国際金融センターとしての機能を高めるための諸施策を進めています。

 

菅首相は、2020年10月に行った所信表明演説において、「海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。そのための税制、行政サービスの英語対応、在留資格の緩和について早急に検討を進めます。」との方針を示すとともに、「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(同年12月閣議決定)においても、「海外と比肩しうる魅力ある金融資本市場への改革と海外事業者や高度外国人材を呼び込む環境構築を戦略的に進め、世界に開かれた国際金融センター(Finance Place Japan)を実現する」ために、「海外で資産運用業等を行ってきた事業者や人材が、同様のビジネスを国内で行いやすくするため、規制・税制面でのボトルネックを除去するほか、金融資本市場の魅力向上やコーポレートガバナンス改革等に取り組む。

 

国・地方公共団体・民間一体で、資産運用業等を始める外国人の法人設立・事業開始・生活立上げへのシームレスな支援、事前相談から登録・監督等までの新規海外運用会社等への英語対応、在留資格の緩和や優遇措置の拡充を図るほか、外国語対応可能な士業や教育・住居・医療等の生活面に係る情報発信を強化するなど安心して日本でのビジネスを検討できる環境を整備する」ことが謳われております。

 

以上のような政府の考え方を背景に、特に金融庁を中心として、海外資産運用業者の参入促進や国内の資産運用業等の活性化を目的とした諸施策が立案・実施されており、特に近時は、海外投資家等特例業務・移行期間特例業務の創設やキャリード・インタレストに関する税務上の取扱いの明確化といった注目すべき取組みも見られることから、本稿では、当局によるこれらの諸施策について概要の紹介をしたいと思います。

二 これまでの諸施策の概観

金融庁※1を中心とした各当局では、これまでも、日本の国際金融センターとしての地位の確立のため諸々の政策を実施してきており、まずは、それらのうち特に最近のものについて概観します。

 

※1 金融庁の国際金融センターに関する特設ページについては、こちらをご参照ください。

 

1. 災害等により海外における業務継続が困難になった金融事業者が本邦で一時的に業務を行うための承認制度

 

海外を拠点として活動を行う金融事業者のうち第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者が、その拠点を有する外国において発生した災害その他の事由※2により当該外国における業務を継続することが困難となり、又は困難となるおそれがある場合に、金融庁長官の承認を受けることによって、金融商品取引業の登録を受けずに、一時的に日本国内において当該業務を行うことができるとする制度(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令16条1項17号、同条5項から11項)であり、2020年7月より施行されています。

 

かかる承認については、事業者が、実際に災害等が発生した場合に備えて、あらかじめ当局と申請内容について相談を行い、実質的な審査を受け、実際に本邦で業務を行うことが必要となった時点で速やかに承認の判断を受けることも可能とされており※3、海外金融事業者にとっては、BCP(事業継続計画)策定の段階において日本を避難地として考慮に入れることも考えられると思われます。

 

※2 「災害その他の事由」の意義については、「外国において業務の継続が困難となる、又は困難となるおそれが生じる状況については、災害のほかにも様々な事由が考えられ、「事由」の範囲を特段限定しているものではありません」との説明がなされており、例えば疫病の蔓延(パンデミック)や政情不安等の理由であっても、ケースによっては「その他の事由」に含まれ得るものと考えられます(「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2020年7月22日)9頁・32番)。

 

※3 金融庁「災害等により海外における業務継続が困難になった金融事業者が本邦で一時的に業務を行うための承認制度に関するQ&A」(以下「本Q&A」といいます。)(問4)

 

なお、日本国内で業務を行うことができる期間は原則として3か月以内とされていますが、業務の継続が困難な状況が3か月で収束しない場合には、再度承認を受けることで、業務を継続することは可能とされています※4

 

※4 本Q&A(問6)

 

2. 金融行政の英語化・ワンストップ化

 

日本の国際金融センター化に向けた取組みの一つとして、金融庁・財務局は、新規に日本に参入する海外の資産運用会社等の登録に関する事前相談、登録手続及び登録後の監督を英語で行うとともに、これらの業務をワンストップで行う「拠点開設サポートオフィス」を2021年1月12日に開設いたしました。

 

また、これと併せ、金融商品取引業等に関する内閣府令の一部改正が行われ、新規に日本に参入する海外の資産運用会社等が提出する登録申請書等※5について、英語による提出が可能となりました(2021年1月施行)。これらの取組み※6によって、対象となる海外金融事業者は、金融商品取引業の登録手続から登録後の検査・監督までの各当局対応を英語によりワンストップで行うことが可能になったということができます。

 

※5 具体的に英語で作成可能な書類については、金融商品取引業等に関する内閣府令350条1項及び2項並びに「金融商品取引業等に関する内閣府令第三百五十条第一項及び第二項の規定に基づき、金融庁長官が定めるものを定める件」をご参照ください。

 

※6 かかる取り組みの具体的内容については、こちらをご参照ください(金融庁HP)。

 

3. 「投資運用業等登録手続ガイドブック」などの公表

 

金融庁は、2020年1月、投資運用業をはじめとした金融商品取引業の登録手続に関する情報提供を行うことを目的として、資産運用業に関連する主な事業スキーム毎に必要となる登録種別等を、フローチャートや図解を用いてわかりやすく解説するとともに、登録審査手続及び登録要件の概要についても説明したガイドブックや、登録手続の事前相談において作成される「新規・変更登録申請者の概要について」(いわゆる「概要書」)の様式を公表しました※7。また、東京都作成(金融庁監修)による、海外の資産運用業者やフィンテック企業が日本においてビジネスを展開する際の必要な手続きに関する英語解説書も公表されております※8

 

※7 「投資運用業等登録手続ガイドブック」及び概要書の様式は、こちらで公表されています(金融庁HP)。

 

※8 英語解説書は、こちらで公表されています(東京都HP)。

 

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河俣 芳治
下田 顕寛

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