(※写真はイメージです/PIXTA)

危機管理にかかわったトヨタの人に話を聞くと、口をそろえて「危機管理に参加したり、支援に行くと、自分自身が成長する」と答えるという。こうした人材教育を続けていることがトヨタの強さであり、その強さが危機管理につながっている。※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

生産調査部員が受けたスパルタ式実践教育

危機管理人の育成には何をすべきか

 

朝倉、尾上が好例だが、トヨタの危機管理人は生産調査部で協力工場の指導をし、かつ、災害支援で現地へ行ったことがある人間が中心だ。加えて、調達の人間と保全マンたちだろう。

 

つまり、生産調査部の人間は日常的に危機管理の仕事をしているから危機管理チームの柱になる。

 

では、彼らは配属されてから、どういった教育を受けてきたのか。

 

腰に縄を巻かれる寸前までいった友山がよい例だけれど、生産調査部員はこれまでスパルタ式実践教育を受けてきた。

 

生産調査部員はこれまでスパルタ式実践教育を受けてきたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
生産調査部員はこれまでスパルタ式実践教育を受けてきたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

たとえば、協力工場へ行き、ラインの前に立つ。上司が床に白墨で円を描く。

 

「ラインのどこに滞留があるのか。では、どう直せばいいのか。それがわかるまで、ここに立ってろ。トイレだけは行ってもいい」

 

そうして、一時間ほど経ったら、様子を見に来る。

 

「これこれこうです」と部下は答える。

 

「違う」

 

それだけ言って立ち去る。

 

結局、一日中、立たされたなんてことはかつては日常茶飯事だった。

 

あるいは新人に一本のねじを示す。

 

「工場のなかでこれと同じものを見つけてこい」

 

なんだ、簡単じゃないかと思ったとたん、上司は罵声を浴びせる。

 

「おまえ、絶対に人に聞くな。もし、聞いたら、ぶっとばす」

 

自動車工場にあるねじの種類は1000種類ではすまない。新人は何日もかけて工場中を歩いて、作業者が使っているねじを見つめ、自分が大事に持っているねじと同じものかどうかを調べる。

 

ふたつともにいったい、何の意味があるんだろうと思われる教育だ。

 

だが、現場を知る、ラインの滞留がわかるようになるには座学では不可能だ。理論を知ったからといってわかるものではない。自転車に乗る、水泳を覚えるのと同じで、手本を見て、実際にチャレンジをして、フィードバックを受けて体感するしかない。

 

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トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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