「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

交際女性に会ってみると…「雄一さんは、心配性ね」

あまりにも意外な文面に驚きました。郁夫さんから聞いている粗暴な印象はなく、実は細やかな心遣いもできる人なのではないか、という気がしてきました。

 

沙織さんというのは、雄一さんと同居している女性です。雄一さんは、彼女のことをしきりに心配していました。そして手紙の中には、年老いた両親を思う気持ちも綴られていました。優しい人なのだ…悪さばっかりして親を長年困らせてきた、ただそれだけの男性ではなかったようです。

 

雄一さんの手紙を手に、沙織さん(40歳)に会いに行ってみました。沙織さんは物腰の柔らかいおとなしそうな女性でしたが、雄一さんが気にするほどひとりでは何もできないということではなさそうです。

 

「私だけで大丈夫なのに。雄一さんは、心配性ね」

 

沙織さんは、雄一さんからの手紙を見て恐縮しながらはにかみました。高校を卒業してからずっと同じ会社で事務の仕事をしているので安定した収入もあり、部屋を借りるのに問題はなさそうでした。

 

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【沙織さんの言葉】

雄一さんとの付き合いは、もう3年になるかな。居酒屋のカウンターで、たまたま隣に座ったのがきっかけでした。その時雄一さんは、前科者であることを自分から口にしたんですよ。びっくりしちゃったけど、でも同時に「正直な人だな」って思いました。だって、なにも初対面の相手に、わざわざそんなこと言う必要ないじゃないですか(笑)。しかも優しそうな目が、とても印象的だったんです。だからきっと悪い人じゃないんだろうなと思えたし、前科があるからって構えることもなかったかな。

 

雄一さんは、小さな頃から悪さをして親にすごく迷惑をかけたと、いつも後悔していました。でも迷惑をかけるって、愛を求めていることの裏返しなんじゃないかって私は思うんですよね。雄一さんはいつまでも、親からの愛を求めていたんじゃないかしら。いつも苦しそうだったわ。

 

それでも気持ちを入れ替えて、真面目に生きていきたいって頑張っていたのよ。でも、やっぱり犯罪者に対する世間の目は冷たくて、その度に後悔しては過去の自分を責めていました。根はとても真面目なのね。彼の落ち込んでいる姿は見ていて辛かったけど、私には何もできなくて。もちろん、だからといって薬に手を出していいわけではないわね。でも、犯罪者が敗者復活できる道って、この日本じゃ少なすぎますよね。

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家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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