堅実にやってきたつもりだったが…
「まさか、こんなに少ないとは思いませんでした」
そう振り返るのは、首都圏で働く会社員の佐藤さん(仮名・58歳)です。大手メーカーの関連会社に勤め、年収は約800万円。役職にも就いており、同世代の中では比較的安定した収入がある方だと感じていたといいます。
「浪費するタイプでもないですし、堅実にやってきたつもりでした」
毎月の小遣いは4万円。外での飲み会もそれほど多くなく、趣味も特別お金のかかるものではありません。家計の管理は妻が担っており、佐藤さん自身は細かい収支をあまり確認してこなかったといいます。
「だからこそ、ある程度は貯まっていると思っていたんです」
ある日、妻がこんな話を切り出しました。
「定年まであと少しだし、一度ちゃんと老後のお金を整理してみない?」
佐藤さんは軽い気持ちでうなずきました。退職金も出る予定ですし、これまで働いてきたのだから、老後資金もそれなりにあるだろうと考えていたのです。
その夜、夫婦で通帳や保険の資料をテーブルに広げました。
普通預金、定期預金、保険の解約返戻金などを一つずつ確認し、合計を出していきます。そして最後に数字をまとめたとき、佐藤さんは思わず黙り込みました。
「……これだけ?」
手元にある金融資産は、およそ1,000万円ほどでした。
住宅ローンはまだ少し残っており、子どもの大学進学などで貯蓄を取り崩してきたことも影響していました。それでも、これまでの収入を考えれば、もう少し残っているはずだと思っていたのです。
「通帳を見て、本当に言葉を失いました」
