競争の苛烈さで知られる「美容業界」へ単身飛び込んだ、証券会社元ディーラーの筆者。2店舗目の経営赤字も立て直し、さらなる利益を求めてコスト見直しに着手したところ、シャンプーやトリートメントといった「薬剤費」に、膨大な費用がつぎ込まれていることに驚愕。そこには、美容業界特有の「悪しき慣習」がありました。

シャンプー類を、メーカーから直接仕入れられない!

CIEL:筆者たちが立ち上げた美容室サロン。大阪、天六に第一号店、難波に第二号店をオープン。

筆者:証券会社でディーラーとして勤務後、営業部へ転属。成績を残すが、顧客の意に沿わない商品を販売するのが心苦しく、その後個人トレーダーとして独立。ひょんな縁から美容業界へと飛び込むことに。

田中さん:筆者を美容業界へといざなったキーマン。

 

開店以来、天六店は順調に利益を出していたが、2016年6月の難波店開店以降、難波店はその利益を全て食い潰すほど損失を出していた。10月になって引き抜いたスタッフが難波店に来てくれたのでそれ以降は徐々に売り上げが伸び、やっと2016年の年末くらいから徐々に採算が取れるようになった。

 

そしてその後も難波店の勢いは止まらなかった。美容室検索サイトと契約している店舗は、その地域での月ごとのネット予約売上ランキングを見ることができるのだが、その翌年の1月、難波店は開店から7ヵ月目にもかかわらず心斎橋、難波、天王寺界隈の全129店舗中5位にまでなった。

 

難波店の経営が軌道に乗ってきた。さあ、新たな作戦を開始するときだ。利益率を上げるためにコスト改善に取り組まなければならない。

 

コストを圧迫している要因の一つはシャンプー、トリートメント、カラー、パーマ剤などの薬剤費だった。どの薬剤もとにかく高いし種類も多い。しかもこれらの薬剤はメーカーから直接買うことはできず、いったん、薬剤ディーラーを通さなければ仕入れることができない仕組みになっている。それが長年の美容業界の慣習だった。なぜこの慣習が今まで残っているのか、筆者は最初から疑問に思っていた。

ディーラーを通すより、直接買ったほうが安いのに…

「ディーラーを通すよりメーカーから直接買ったほうが絶対安いのに。この仕組み、どうにかなりませんかねえ」

 

天六店を始める前から筆者は田中さんにこの薬剤の販売システムについて愚痴っていた。田中さんはやれやれ、という感じで筆者の愚痴につきあってくれていた。

 

「仕方ないですよ、そういう仕組みになってるんですから。メーカーからは直接買えないし、ディーラーを通したほうが、今の流行とか、新しい薬剤の使い方とかがわかって役に立つんです」

 

「でもいまどきネットで調べればすぐに薬剤についての情報は入ってきますよ。こちらの情報の方が信頼性も速さも優っていると思いますけどね」

 

「まあ、そうかもしれませんけど、実際メーカーから薬剤を買う仕組みがないんですから。どうしようもないんですよ」

 

「よし、決めた!」

 

筆者は決心した。経営状態が安定している今ならば、新しいことにチャレンジすることができる。人件費を削らずにコストを下げるためにはここしかない。

 

「じゃ、うちが薬剤ディーラーになりましょう!」

 

「えっ!」

 

田中さんは目を丸くして筆者を見つめた。この人、また、とんでもないことを言い出した、と思っている様子だった。美容室で使うものはディーラーからでないと何も買えないという仕組みが美容業界の常識ならば、独自に薬剤ディーラーを立ち上げればいい。薬剤のコストを下げる方法はそれしかない。

 

最初から薬剤ディーラーを立ち上げるのは大変なので、M&Aを仲介する会社に薬剤ディーラーで手頃なところを探してほしいと依頼して、赤字ギリギリの薬剤ディーラーを見つけた。ここを買い取って新しい会社を作ろう!

 

2017年5月には借金も返済し少し貯金もできたので、600万円の資金で、美容室を経営しているOXY株式会社とは別に、薬剤ディーラーの会社を立ち上げた。その結果、薬剤の仕入れ値を半額近くまで落とすことができた。この仕組みは今後多店舗展開する上でとても有効な手段となった。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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よそ者経営

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山下 拓馬

幻冬舎MC

大手上場企業の安定から飛び出し個人投資家へ転身。 未経験の美容業界でオープンした美容室CIELは、設立5年で全国30店舗を展開する急成長を遂げた。 その成功の歩みから未来への展望まで、すべてを語り尽くす――。 第1章…

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