「スタッフ不足はどこも同じ」それでも決心した選択
CIEL:筆者たちが立ち上げた美容室サロン。大阪、天六に第一号店、難波に第二号店をオープン。
筆者:証券会社でディーラーとして勤務後、営業部へ転属。成績を残すが、顧客の意に沿わない商品を販売するのが心苦しく、その後個人トレーダーとして独立。ひょんな縁から美容業界へと飛び込むことに。
むらやんさん:筆者が個人トレーダー時代に出会い、親交を深めたベテラン億トレーダー。筆者が事業を始める際にも後押しをした人物。筆者のことを「ヤーマン」と呼ぶ。
難波店の集客力には自信がある。でもどんなに設備を揃えても、美容師がいなければ店はやっていけない。美容師が必要だ。猶予はあと1、2ヵ月。その間にスタッフを集めてこないと……難波店は終わる!
筆者に何ができるだろうか。求人広告でいくらアピールしても振り向いてもらえないなら、実際に美容師さん本人に会ってアピールするしかないのか。でもスタッフ不足はどこの店も同じだから引き抜きはあまりやりたくない。
でも、もうそんなきれいごとを言っている場合じゃない!
難波店を閉じるかどうかの瀬戸際に立たされて、筆者は他の美容室からスタッフを引き抜くことを決心した。これしか難波店を救う手立てはなかった。
証券会社の営業マン時代に人に近づいて親しみを持ってもらう技は身につけている。美容師さんが「独立する時に応援してもらえるかも」という気持ちを抱く可能性が高いから、筆者が投資家だということもアピールポイントになる。
筆者はチェーン店に的を絞って、美容室通いをした。髪を切ってもらう時、スマホに株価のチャートを表示させていると、美容師さんは株取引やってるんですか、と聞いてくる。まずは投資をしている自分に関心を持ってもらう。
また、事前にツイッターや美容室検索サイトのブログでその美容師さんが何かつぶやいてないか検索して、その美容師さんの趣味が何かを調べておく。交渉は事前準備でほぼすべて決まる。釣りの好きな人ならばその話を話題にできるように、今旬の魚は何かとか、いい釣り場所がどこかなど基礎知識を仕入れておく。
施術の間にしゃべって仲良くなって、ご飯一緒に食べましょうと誘うことができれば第一段階終了だ。その後お酒を飲みながら親交を深め、筆者のことを信頼してもらった上で、美容室を経営していることを打ち明ける。そのときの反応をうかがいつつ、CIELの報酬体系などについて説明する。
常に今、相手は何に関心があるのかを考え、相手の気持ちを尊重する。求人の話をする前に筆者という人間を信頼してもらわなければ、CIELの報酬体系を信頼してもらえない。一人ひとりゆっくり口説いて時間はかかったが、2016年10月、難波店に新たに4人のスタッフに来てもらうことができた。
「借金をするしかないか…」崖っぷちの決断
やっと希望の光が見えてきた。これで採用したスタッフにお客様がついてくれれば売り上げが伸びる!
……でもそれまでにはまだ2ヵ月はかかるだろう。この間のつなぎの資金が足りない。利益が出ていないので銀行には融資してもらえない。この2ヵ月を乗り切るためにはどうしたらいいのか。ここは借金するしかないか……。
筆者は天六店を開店した後も、年に2、3回は証券会社主催の講習会の講師を務めたり、オフ会を全国各地で主催したりして、各地の個人投資家の方々と親交を深めていた。特にむらやんさんやテスタさんとは親しくさせていただいて、一緒に海外旅行に行ったり、頻繁に飲みに行ったりしていた。彼らは筆者にとってとても大切な、失いたくない人たちだった。
筆者はそれまで人に借金を申し込んだことはなかった。もちろん彼らは美容室の開店の時には花を贈ってくれたり、来店してくれたりと、筆者を助けてくれてはいたのだが、こちらから借金を申し込むことは違う。
親しい間柄だからこそ、多額の借金を申し込むことによってその後の関係が変わってしまうかもしれないと思うとそれが怖かった。それにもし筆者が借金を申し込んだことが他の投資家たちに漏れたら、変な噂が広がるかもしれない。それは投資家としても、起業家としてもダメージが大きい。
借金を申し込むことは筆者自身にとってリスクが大きい。でもここで資金が工面できなければ難波店をつぶさなければならない。難波店、というハコだけならば簡単に損切りできる。でも難波店には筆者を信頼してくれたスタッフがいる。
家族を抱えていて、本当は独立したかったのにリスクを承知で難波店に来てくれた伊藤さん。筆者のことを信じて他店からCIELに来てくれた4人のスタッフ。彼らも筆者にとっては大切な仲間だ。彼らの信頼には応えなければ!
あと2ヵ月耐えることができたら、採算が取れる見込みはある。何としても難波店を生き延びさせなきゃならない。
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