コロナ禍が直撃…終わりの見えない「開店休業状態」へ
CIEL:筆者たちが立ち上げた美容室サロン。大阪、天六に第一号店、難波に第二号店をオープン。
筆者:証券会社でディーラーとして勤務後、営業部へ転属。成績を残すが、顧客の意に沿わない商品を販売するのが心苦しく、その後個人トレーダーとして独立。ひょんな縁から美容業界へと飛び込むことに。
平山さん:twitterで出会った、美容室の経理業務の経験者。
伊藤さん:各店舗の店長を統括するエリアマネージャー。
国生さん:筆者が経営スタッフとして招いた美容師。
3月下旬。いよいよロックダウンが現実味を帯びてきた。
「休業要請って言われなくても、休業してるようなものですね。予約は入らないし、街にも人がいませんからね」
エリアマネージャーの伊藤さんがぼやいている。
「そうだねえ、いまの状態は、無人島に行って家賃50万円払って、誰もいない浜辺に向かって美容室検索サイトに50万円をかけて広告をうち、スタッフ10人の給料を払い、光熱費や音楽などの経費もかけて…、それを何十という無人島で展開しているという感覚だなぁ」
「山下さん、うまいこと言いますねぇ」
伊藤さんは筆者の冗談に笑ってくれた。笑い声に心が和む。
「いや、伊藤さん、この機会だから時間のあるときにみんなに勉強してもらってよ。発信力、ツイッターでいかにフォロワーを獲得するかも大切なマーケティング能力だからね」
「もちろんですよ! みんな社長のツイッター見て勉強してますよ、こういう時でないとなかなか本も読めませんしねー、経営の勉強をしようって言ってます!」
「いいですね! 筆者もこの機会を利用して徹底的にマーケティングの本を読みあさってます」
各店舗ともほぼ開店休業状態だが、伊藤さんは店長たちに連絡を取って、明るく振る舞い、スタッフを元気づけて、みんなの不安を解消しようとしていた。
「こういう時にはやはり、正社員はありがたいですよね。業務委託の人は収入ゼロですからね」
伊藤さんはしみじみと言った。それは全くその通りだ。スタッフが不安を感じることのない正社員サロンにしておいてよかったと思う。しかしそれは、会社に売り上げゼロでも給料を支払うだけのキャッシュがある場合の話なのだが。
断られる融資、支えてくれる仲間
つとめて明るく振る舞おうとは思っていても、夜寝る前には不安に押しつぶされそうになる。朝起きて事務所に来ると平山さんに毎日同じことを聞くことになる。
「融資の話はどうなりましたか?」
融資の相談で銀行や信用金庫を飛び回っている平山さんの頬は日に日にこけてきている。しかし、筆者も彼に聞かずにはいられない。
「ひとつはダメでした」
「えっ、どうして!?」
「新型コロナウイルス感染症特別貸付なんですけど、融資の条件は、最近1ヵ月の売上高または過去6ヵ月の平均売上高が、前年または前々年の同期と比較して50%以上減少しているところなんですよ。これ会社全体で判断されますから、うちは前年同期からは店舗数が1.5倍近く増えてますからね。さすがにいまでもそこまで減っていないんです」
平山さんが悔しそうに答えた。これはあまりにも不条理だ。
絶望的な話に気を失いそうになっていると、平山さんが慌てて付け加えた。
「いや、この条件に疑問を持っているのはうちだけじゃありませんから。他の融資枠もいま調べています。ちょっと待っていてください」
そう言って平山さんは目を書類に戻した。
「家賃も美容室検索サイトの広告費も減額や猶予を交渉しましょう。薬剤の支払いを待ってもらうこともできるかもしれません」と国生さん。彼もキャッシュ確保のために頑張ってくれている。
いまは苦しいが、思えば難波店が軌道に乗らずに苦しんでいたころ、あの時、筆者は苦しみを一人で抱えていた。一人で考え、一人でもがいていた。でもいまは、国生さんも、平山さんも、伊藤さんもいる。姉は引き続き経理を担当してくれているし、小西さんもしっかり平山さんをサポートしてくれている。それぞれが自分の役割を果たして、力をつくしてこの会社を、一緒に働く仲間を守ろうとしている。彼らと一緒に戦うことができる。
やれる。どれだけコロナが長引いても、生き残るぞ!
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