「業界ナンバーワン」の求人を出しても応募がないワケ
1店舗目の天六店オープンから1年後、2016年4月に難波に絶好の居抜き物件が見つかり、改装工事をして6月に難波店をオープンすることにした。新たなスタッフとして伊藤さんに来てもらうこともできた。美容室検索サイトの掲載プランを一番高いものにしたので開店前の予約も順調に入り始めていた。そこまでは予定どおりだった。
しかし、スタイリストがいない。特に正社員の待遇は業界ナンバーワンレベルで求人広告を出しているのに全く応募が来ないのだ。筆者は難波店の開店準備を手伝いながら伊藤さんに言った。
「そんなにも美容師さんって求人広告を信じないんですか? 天六店の時にも苦労したけど、そりゃあれは1店舗目だから信用されないのかなとは思ってましたよ。今回はちゃんと実績もあるのになぜ応募してみようと思わないんでしょうねえ」
いろいろな美容室を渡り歩いている伊藤さんは経験が豊富だ。彼はテキパキと手を動かしながら筆者の愚痴を聞いていた。
「山下さん、そりゃそうですよ。美容室なんていくら募集の紙にいいこと書いてあっても実際に給料明細をもらうまでわからない、って世界ですからねー。たとえば『最大30%バック(社内規定による)』と求人広告に書かれていても、そのハードルがすごく高くて実際にはクリアすることがほとんど不可能、という話はよくありますよ。有給休暇制度ありと書かれていても、使える職場は少ないんじゃないですかー。
『自分自身に指名のお客様がいなくても、新規集客がかかるお店なので安心して働けます』ってセリフもよく見ますけど、実際は全然お客様が入ってこなくて苦労して自分でハントして新規客を獲得しなければならない、っていう話も普通ですよ」
「求人広告も契約書も信じられない…」美容業界の常識
話をしながら伊藤さんはソファや鏡を順番にどんどん磨き上げていく。手際の良さに感心しながら筆者は話を続けた。
「でも求人広告にはウソを書いていても契約の時にばれちゃうんじゃないですか?」
「契約書にだってホントのところは書かないところ多いですよ」
「ええっ、それおかしいでしょ?何でみんな怒らないの?」
「うーん、うまくごまかしちゃうんですよ。でもそれが美容業界の常識なんですよ」
「そうですかー、でも結局それで不満がたまってスタッフが辞めると、お互いが時間の無駄だし、不幸になるだけなのにね。お互いに幸せを目指そうとは思わないのかなー」
伊藤さんは苦笑いして、手を止めて、言った。
「そんなことを言ってくれる経営者の下で働くって、僕は幸せですけどね。でもみんなやってることですから、うちだけそんなことやりません、って言ってもそんな美容室あるわけない、ってことになるんですよ」
「うーん……知名度を上げて、実績を積み上げるしかないんですかねー」
「とにかくスタイリストで正社員は無理だと思いますよ。業務委託でないと稼げないってみんな信じてますからね。僕も知り合いに声かけてみますけど、正社員はちょっと無理じゃないですかね」
「うーん……」
伊藤さんの言葉に天を仰ぎ、思わず筆者はセット面の真新しいブラウンのソファに座り込んだ。
「あっ、山下さん、そのソファ、もう磨いた後なんですから汚さないでくださいよっ!」
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