恐ろしい!「無い需要」を刺激して延命するマーケティングの罪

マーケティングは「需要の飽和」を先延ばしにする活動という側面があります。「必要のないものの消費」という破壊行為を生む、不道徳なものといえます。デザイナーのパパネックは「最もいかがわしい」とまで辛辣に指摘しました。マーケティングがいかに倫理的に問題であるのかについて具体例とともに山口周氏が解説します。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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信じがたい…70年代電通のマーケティング「戦略十訓」

マーケティングの本質は、すでに満ち足りている人に対して「まだこれが足りてないのでは?」とけしかけて欠乏の感覚をもたせ、新たに問題を生み出すことで「ゲーム終了」を先延ばしすることです。

 

では具体的に、どのようにすれば「需要の飽和」を先送りできるのでしょう?ここでは1970年代において、広告代理店の電通でマーケティング戦略立案のために用いられていた「戦略十訓」を確認してみましょう。具体的な内容は次のようになっています。

 

1.もっと使わせろ

2.捨てさせろ

3.無駄使いさせろ

4.季節を忘れさせろ

5.贈り物をさせろ

6.組み合わせで買わせろ

7.きっかけを投じろ

8.流行遅れにさせろ

9.気安く買わせろ

10.混乱をつくり出せ

 

…たしかに、これらのことができれば「需要の飽和」は先送りにできるかもしれません。

 

マーケティングによって需要の飽和は延期することができるという。(※画像はイメージです/PIXTA)
マーケティングによって需要の飽和は延期することができるという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

しかしおそらく、このリストを一読した人のほとんどは、内容に強い違和感を、あるいはもっと率直に言えば不快感を覚えたと思います。資源・環境・ゴミ・汚染といった問題が全地球的に議論されている現代の私たちから見れば、こういった意図をもって需要を誘起するのはあまりにも非倫理的だと思うかもしれません。

 

弁護をするつもりは毛頭ないのですが、ここで、このリストについて2つの点から注意を促しておきたいと思います。1点目は、このリストが作成された1970年代の人々の環境や自然に関する通常の認識は、今日の私たちのそれとは大きく異なっていた、ということです。

 

当時は多くの工場が猛毒の廃液を河川や海に垂れ流し、河川から瘴気のような腐臭が漂っていた時代だったということを思い出してください。悲惨な水俣病の原因となった新日本窒素肥料(現在のチッソ)水俣工場が、有機水銀の含まれた工場廃液を水俣湾へ垂れ流すことを停止したのは1969年のことです。

 

現在の私たちからすれば信じがたいような愚かさですが、当時の人々の感覚が、現在の私たちのそれとは大きく異なっていた点には留意しておかなければならないと思います。

 

ライプニッツ 代表 独立研究者
著作家
パブリックスピーカー

1970年東京都生まれ。神奈川県葉山町に在住。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。

電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

(的野 弘路=撮影)

著者紹介

連載日本人はコロナ後の世界をどう生きるべきか

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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