マーケティングは「需要の飽和」を先延ばしにする活動という側面があります。「必要のないものの消費」という破壊行為を生む、不道徳なものといえます。デザイナーのパパネックは「最もいかがわしい」とまで辛辣に指摘しました。マーケティングがいかに倫理的に問題であるのかについて具体例とともに山口周氏が解説します。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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    マーケティングの「欺瞞」に対する様々な指摘

    このような「欺瞞」はすでに多くの告発を受けています。たとえば、社会におけるデザインの役割と責任について活発な提言を行ったオーストリアのデザイナー、ヴィクター・パパネックは著書『生きのびるためのデザイン』において次のように指摘しています。

     

    「多くの職業のうちには、インダストリアル・デザインよりも有害なものも有るには有るが、その数は非常に少ない。たぶん、たった1つの職業がいっそうといかがわしいものだといえよう。広告デザインがそれである。

     

    多くの人を説き伏せて、手元に金がありもしないのに、もっぱら人目を引きたいという理由から要りもしない品物を買ってしまうように誘惑する職業などというものは、おそらくいまの世の中に或る職業のうちで最もいかがわしいものだといえるだろう。そして宣伝・広告人の広めるあくどい白痴的な考えを商品へとでっちあげるインダストリアル・デザインは、すぐにその次にならぶものだろう。」

    (原文ママ)

     

    ヴィクター・パパネック『生きのびるためのデザイン』

     

    非常に辛辣な指摘ですが、これを広告・マーケティング関係者のみに向けられた批判と捉えてしまったらパパネックの本意を読み誤ることになります。ドラッカーが指摘している通り、企業活動のエッセンスが「マーケティング」にある以上、パパネックが指摘する原罪性から逃れられるビジネスパーソンはいません。

     

    飽和する需要を「延命」させようとすれば、必ず道徳的に微妙な領域に踏み込まざるを得ない。この点についてはすでに過去の経済学者も気づいていました。

     

    たとえばケインズの友人でケンブリッジ大学の経済学教授だったデニス・ロバートソンは、イギリス政府が設けた「マクミラン委員会」で1930年4月、当時進行しつつあった大不況の原因として真っ先に「需要の飽和」(thegluttabilityofwants)をあげており、その解決法については次のように述べています。

     

    「絶えず新しい欲望を刺激し続けるしかない。実際のところ、この不道徳(immoral)な方法をコツコツと実践した国が、大不況という病を延期することに成功した国ということなのである。」

     

    広井良典『定常型社会新しい「豊かさ」の構想』

     

    不道徳をとるか、不況の延期をとるか。鋭いトレードオフをロバートソンは突きつけたわけです。しかし、たとえ後者をとったとしても結果は変わるところがありません。ロバートソンがコメントの中で、大不況を「解決する」とは言わず、「延期する」と言っている点に注意してください。

     

    結局、このゲームは終了を延期させることはできても、本質的に解決することはできない、つまり「Doomedtofail=最後は負けが運命づけられている」ということです。

     

     

    山口周

    ライプニッツ 代表

     

     

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