【関連記事】コロナ禍で格差拡大「金余り」の富裕層…人気の高まる投資先は
なぜかGDPが突出して重要な指標として扱われている
高原社会を実現するに当たって、これだけはお伝えしておきたい、と思われるいくつかの提案をごく手短に挙げてみたいと思います。
提案「ソーシャル・バランス・スコアカードの導入」
私たちが目指すべき社会がどのように描かれるかにかかわらず、それは間違いなく、極めて多様なサブシステムから構成される複雑なシステムとなるでしょう。このように複雑なシステムを、単一の指標を主軸に置いて計量・評価しようというのであれば、それはまさしくドン・キホーテ的に無謀な営みと言わざるを得ません。
社会と同じように複雑なサブシステムから構成される人体の健全性をチェックする人間ドックでは数十の指標にわたってチェックを行い、しかもそれらの指標のあいだに優劣をつけないわけですが、人体と同様に複雑な社会の健全性を測るときには、なぜかGDPだけが突出して重要な指標として扱われている、これは非常に不思議なことです。
本連載で何度も指摘した通り、文明化が未成熟な状況であればGDPが指標として優先されることに、ある程度の必然性はあったかもしれませんが、すでに文明化が終了段階に入っている世界において、GDPだけに突出したウェイトを置いて社会運営の巧拙を判断することはかえって弊害を招くことになります。なぜなら、私たちの社会には経済成長とトレードオフの関係にあるさまざまな要素があり、単独の項目だけに突出した重みをおいて評価することでむしろバランスを崩してしまうからです。
ではどうするか。私は「ソーシャル・バランス・スコアカード」という概念を提案したいと思います。あらためて確認すれば、バランス・スコアカードとは、企業の業績を、売上や利益といった短期的な結果指標だけで評価せず、さまざまな側面からバランスよく評価することを可能にする評価の仕組みです。具体的には、オリジナルのバランス・スコアカードでは「財務」「顧客」「業務」「人材」という四つの項目で企業を評価する枠組みになっています。
ここでポイントになるのが、これら四つの指標がトレードオフの関係になっている、ということです。利益を短期的に高めようとすれば、製造原価を下げる、人件費を下げることで短期的に達成することは可能ですが、長期的には顧客の離反や従業員の士気の低下という問題を招き、業績は低迷するかもしれません。ここでは「中期と短期」という時間軸と、「内部と外部」という空間軸が評価指標の対をなす軸となっています。