きもの業界が勢いを失うなか、きもの店の二代目となった筆者は、先代のビジネス手法をを検証した結果、思い切った改革に踏み切ることにしました。従来と異なるやり方に嘲笑を浴びせる業界関係者は少なくありませんでしたが、古臭く硬直化した業界だからこそ、わずかなイノベーションが大きなチャンスにつながることに気づきます。

二代目店主、「先代のやり方が正しいか否か」検証する

京染悉皆屋(白生地からの誂え、洗い、染め替え、お仕立てなど、きものに関わるすべての仕事を見立て、京都の専門業者とつなぐ取次業)の二代目になった筆者には、強い危機感がありました。きものを「普段、着るための実用品」ではなく「所有することにステータスを感じ、箪笥にしまわれるだけの贅沢品」と位置づけて売るという業界のやり方は、もう限界だと感じていたからです。

 

かといってどこから手をつけて、どこに向かえばよいかはまったく分かりませんでした。そしてまずは、一人でも多くの方にきものを着ていただけるようにするため、従来のやり方を変えなければならないと思い立ちました。そこで、まず手をつけたのが「先代である母のやり方が正しいのか検証する」ということでした。

 

母の経営方針は、ひとことでいえば「身の丈経営」でした。石油会社に勤めていた父の収入があったため、必要以上の利益は求めていませんでした。売上が良過ぎたときは、お店を閉めていたほどです。また、無借金経営を貫き、手元にある現金以上の仕入れは決してしませんでした。

 

同時に、母のスタイルは受け身でもありました。母も筆者と同様に、世間で「きもの離れ」が進んでいることは感じていましたが、それについて対策を立てたりはしなかったのです。いま、ひいきにしているお客さまだけを見る。そして、あまりに手間のかかる仕事はしない。母はそんな基本方針で仕事をしていました。

業務内容も、社内福利厚生も、従来のままでは続かない

筆者は、母のやり方では商いとして続かないと考えました。きものを着る人が少なくなれば、それに伴って悉皆屋を利用する人も減ります。だから、きものを日常的なものに再び戻すため、着やすくするための工夫や、きものを楽しくする提案に取り組まなければならないと考えたのです。そのためには、宣伝や商品開発費に積極投資をすることが欠かせないとも考えました。

 

母が創業した当時のきもの業界では、住み込みで家事などを手伝いながら店の仕事をする丁稚(でっち) が、当たり前のようにいました。業界全体が古い体質で、しかも気仙沼は田舎だったので、丁稚奉公のような前時代的なやり方が生き残っていたわけです。しかし、それでは優秀なスタッフを雇用し、働き続けてもらうことは不可能だと母を説得し、さまざまな社内制度を整えました。

 

例えば、給与体系や福利厚生の仕組みを整えたのは筆者の代になってからです。そして、たかはしは1990年、「有限会社たかはし」になりました。目的は、筆者を含めた従業員たちが厚生年金をもらえるようにすることでした。

 

店舗を改装したのも、母から経営を引き継いでからしばらく経ったころです。それまでのたかはしは、外から見ただけではなにを扱っている店なのかまったく分かりませんでした。そこで、外から店内がよく見えるようなつくりにして一見さんが入りやすい雰囲気に変え、かつ、入り口の近くに女性が好みそうな雑貨類を飾りました。こうしたことで、お得意さま以外のお客さまにも、気軽に足を運んでもらえるようになったのです。

 

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髙橋 和江

幻冬舎MC

旧態依然としたきもの業界で、赤字経営から脱却。年10%以上のペースで売り上げを伸ばしてきた社長が解説。 古い業界だからこそ風穴は開けられる! 市場縮小が進む業界の状況を打破し、東日本大震災に見舞われながらも、ひ…

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