和を乱さないよう「言うべきことも言わない」のは…
従業員のなかには相手の機嫌を損ねることを恐れ、同僚などに対して強いことを言わない人がいます。筆者はこういう人に対して、「同僚との仲より、もっと優先すべきことがあるんじゃないの?」としつこく問いただすようにしています。
ある日のミーティングで、従業員の一人から、社内の通路で狭くて危険な場所があるという指摘がありました。ほかの人にも聞いてみると、同じように感じていた人はほかにもたくさんいました。ところがその人たちは、危ないと思いつつ、そのまま放置していたのです。
通路が通りづらいのであれば、人に頼むか自分自身でやるかして、邪魔なものをどかせばいいのです。ところが、「前からこうだったから…」「ものをどかすと誰かから文句を言われそうで言えなかった…」とみんなが考えていたのです。
このように、周囲に対して変に気を回し過ぎる態度は良くありません。素直に伝えればすぐ済む話なのに、なぜか心のなかに押しとどめてしまうのです。そして、ストレスをため込み、ある日突然爆発させてしまう。それなら最初から、余計なことは考えず、悪い感情を抱く前にポンポン発言するほうがずっといいでしょう。
もちろん、周囲とトラブルばかり起こす人より、同僚と仲良く仕事を進められる人のほうがいいに決まっています。ただ、和を乱さないようにするため、言うべきことも言わないのはただの保身です。例えばあるベテラン従業員が、間違った仕事の進め方をしていたとします。仮に、周囲の同僚たちがベテランを怒らせたくないと思い、口をつぐんでしまったら、お客さまや取引先の方々に迷惑をかけてしまうでしょう。
逆に、相手の間違いをきちんと指摘すれば、周囲の人はもちろん、ベテラン従業員本人のためにもなります。一時的にいざこざが起きることより、長期的な視点で人間関係をとらえて行動するのが、本当の誠実さです。これは、筆者と従業員の関係においても同じです。社内の雰囲気を悪くしないため、部下への指導を緩めるようでは、会社のためにも部下のためにもなりません。
筆者は従業員を、縁あって筆者の会社に来てくれた大事な人だと思っています。そして、大事だからこそ、上っ面だけでなく魂までつながれるような人間関係をもちたいのです。それゆえ、言うべきことはきちんと言いますし、厳しくすべきときにはピシッと伝えるようにしています。
人間同士の関わりは、泥臭いものです。また、時には身を切られるようなつらい思いをすることもあります。でも、本音でぶつかり合った先に、本当の信頼関係が築けるというのが、筆者の信念なのです。
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