昔ながらの商習慣から脱却できず、「顧客目線」の欠落によって衰退を余儀なくされていたきもの業界。美しいきものに憧れる潜在的な顧客がありながらアプローチしきれず、時代はどんどん移り変わっていきました。従来型のビジネスに限界を感じた女性経営者が注目したのは、消費者ニーズにマッチした家電製品や生活用品を市場に投入し続ける「アイリスオーヤマ」でした。

ものづくり企業が、小売りへの進出するメリットとは

筆者の会社は京染悉皆屋というサービス業としてスタートしましたが、途中から呉服販売業や和装肌着・小物の製造業も手掛けるようになりました。そして自社工場を手に入れ、企画・製造・販売といったすべての工程を手掛ける「メーカーベンダー」になったわけです。これにより、ユーザーが求める商品を提供しやすくなった経緯があります。

 

ものづくり企業の皆さんには、小売業への進出をお勧めします。ユーザーと直接触れ合う場をつくることで、商品づくりに不可欠な「お客さまの生の声」を聞くことができるからです。

 

商品をつくる際に、「プロダクトアウト」「マーケットイン」という2つの考え方があります。プロダクトアウトは、自社がもつアイデアや技術、製造手段を活かし、作り手側からの発想で商品を開発することです。

 

マーケットインは、顧客や市場が求める商品を開発することを指します。お客さまからきものに関する悩み事を聞き、さらに、自分たちで市場にある商品を実際に使って不満がないか確かめる。そして、それらを解消できる製品をつくることでヒットを生み出そうとする考え方です。

 

筆者の会社はプロダクトアウトとマーケットインの両方を併せ持っています。プロダクトアウトの「満点スリップ」から始まり、現在の市場にはない商品だけをつくることを掲げ、いまに至ります。でも、そのうちユーザーの声がたくさん集まる環境である優位性に気づき、マーケットインも手掛けるようになりました。

 

プロダクトアウトとマーケットインのあいだに優劣はありません。ただ、衰退産業の中小企業の場合、マーケットインの考え方のほうが行動しやすいのではと思います。プロダクトアウトの場合、自社の強みを活かし潜在的なニーズを掘り起こせるような画期的商品を生み出すことができれば、大ヒットを飛ばすことも夢ではありませんが、ユーザーニーズとまったく合わない商品ができてしまい、見向きもされない危険性も大きいと思います。たかはしの場合にも、満点スリップの成功までに3年以上かかってしまったわけで、その時間は本当につらいものでした。

 

だいたい、自社の強みを客観的に判断できている会社はどれほどあるのでしょう。外側から見れば、びっくりするような技術でも、内部では当たり前のことになっているなんてケースはよくあることです。衰退産業のなかのマーケットインを探すことも大切ですが、自社の魅力をきちんと認識することはそれ以上に大切な作業だと思います。そのうえでのマーケットインなら、ユーザーの課題を解決することに対し、明確な自社の強みを活かしたプランが組めるのではないでしょうか。

 

とりわけ、売り手が殿様商売に陥ってユーザー視点を忘れているようなニッチな業界であればあるほど、ユーザーの不満を解決する商品・サービスを生む楽しみはたくさんあるというものです。

問屋に遠慮してしまい、小売業に乗り出せないなら…

マーケットインで商品をつくるためには、ユーザーの声を客観的に聞くことが不可欠です。そこで、ものづくり企業には、マーケットインをたやすくするためにもぜひ小売業に進出してほしいのです。

 

ものづくり企業のなかには、問屋に遠慮して小売業に乗り出せないというところがあるかもしれません。世話になっている問屋を通さずに商売をするのは不義理に通じるのではと感じることは当たり前の感覚ですし、むしろ大切にすべきです。それまでの事業はそのまま大切にしたうえで、新たな道をつくる工夫の余地を模索してはどうでしょう。

 

従来商品とは異なる別ブランド・別会社を立ち上げて、そこの商材は直販のみにするとか、一部のアンテナショップに直に卸すなども一法でしょう。インターネットの時代ですからなんでもできます。

 

単にSNSでつながっているだけではユーザーの本音は出てきません。そこに対価が生じるという厳しさがあればこそ、聞き出せる宝があるのです。お客さまと直接触れ合う機会を設け、そこから商品づくりのヒントを得つつ、きちんとした利潤も得る。これからのものづくり企業が生き残るための大きな施策となるはずです。考えてはいるんだけどなぁ、という方はすぐにGOです。

 

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