自社工場があるのに外注を続ける「三つの理由」
実際に製品をつくるとき、製造費の安い海外工場などに委託するケースが多々あります。しかし筆者は、外注先は絶対に地元企業にすべきだと考えています。
筆者の会社の外注先は、すべて気仙沼の近くにあります。車なら1時間以内に到着できるので、何か問題が起こったり細かな調整が必要になったりしたら、筆者や担当者が飛んでいって話をすることができます。こうして密なコミュニケーションをとれることが大事なのです。
こちらでパターンをつくり、生地や糸などを指定しても、縫製や裁断など作業に愛情がないと細かな細工で肌着の着心地は大きく変わります。このとき、外注先と意思疎通ができる環境なら、よりよい商品をつくるためにギリギリまでチューニングができるのです。反対に、コミュニケーションがうまくできなかったら、どこかに不満が残る商品になってしまいます。ですから、筆者は地元工場にこだわるのです。実際の距離というよりは心の距離ということですが。
信頼できる外注先を確保することは、自社が成長するうえで欠かせない条件の一つです。筆者の会社では2013年に自社工場を手に入れましたが、今後も外部の工場に製造を依頼し続けるつもりです。
自社工場があるのに外注を続ける理由は三つあります。
一つ目は、リスクの分散です。内製率が100パーセントだった場合、自社工場がトラブルを起こして稼働できない状況に陥ったら、すべての製造が止まってしまいます。それは、商品が届くことを楽しみに待っているお客さまを裏切ることになるのです。しかし外注先があれば、トラブル時にも商品を送り出し続けることができます。
また、何かの拍子に自社製品に注目が集まり、急激にニーズが高まったとします。そのとき自社工場でしか生産できなかったら、生産量の増加に対応できず、機会損失を起こしてしまうでしょう。注文増加に慌て、工場にミシンを数台入れても、それを動かすスタッフを雇って育成しなければ商品はつくれません。しかし、信頼できる外注先が複数あれば、短期間で生産能力を高めることが可能です。
二つ目の理由は、各工場の特性に合わせて製造を任せられることです。どんな工場にも得意・不得意がありますし、仕事の質や納期への対応力にも違いがあります。もし外注先がいくつかあれば、新商品の製造を依頼する際に、自社工場を含めて最適な依頼先を選ぶことができます。
三つ目の理由が「オープンイノベーション」です。三人寄れば文殊の知恵といいますが、自分たちだけでつくった商品より、多くの人からアイデアやノウハウをいただいた商品のほうが絶対に優れているのです。特に、「一緒に面白がってくれる仲間」が多ければ多いほど、彼らの知恵を取り込んで優れた新商品を生み出すチャンスが増えます。
現在筆者の会社では、全商品の7割程度を内製化しています。ただ、内製率をこれ以上高めることはしません。むしろ、外注率をさらに高めたいと思っているところです。
外注先は「一蓮托生のパートナー」だと心得よ
信頼できる外注先を増やすには、日ごろからの関係性に力を入れなければなりません。彼らを単なる取引先と考えるのではなく、ビジネスを進めるうえで欠かせない、一蓮托生の「パートナー」だと考えています。
なじみの縫製工場に、裁断した生地を送って試作品の縫製を依頼したときのことです。量産化したらどのくらいの費用がかかるのかを見積もってもらいました。普通は、こちらから「この値段で縫製を頼めないか」と尋ねるのですが、その工場がどの程度のコストをかけて製造できるのかを知りたかったのです。もちろん、べらぼうに高い見積もりが出てきたら、値下げ交渉をするつもりでした。
ところが先方からいただいた見積もりは、予想よりずっと安い金額でした。すでに稼働していた自社工場では、とても受注できないほどの安さだったのです。
筆者は見積もりを出してくれた経営者に、「うちでこの商品を縫製しようとしたら、とてもこの金額ではできません」と素直に話しました。そして、見積もりより高い、筆者が適正と思った金額で契約することにしたのです。当然、商品価格は上がります。ですが、リスペクトすべきはユーザーも同じです。仕事なりの対価として見合う金額を払う、それぞれみんながとるべき行為なのだと思います。いわゆる三方よしということです。
一方、高いのをどうにかしてと言われることもありますが、暴利をむさぼっているのではなく高品質を守るためには致し方ないことです。安いことを優先するなら、商品はほかにもたくさんあります。売る側も買う側も互いに感謝と敬意のもてる仕事が一番、そのためには、適切な値付けで取引をすることが欠かせません。慣れ合うことなく、品質に対しての厳しさを保つためにも大切なことだと思います。
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