商品開発は「ゼロにプラスを上乗せする」発想が必要
筆者の会社では、マーケットインの発想でつくられる商品が増えています。つまり、ユーザーの課題解決型商品が増えているということです。しかし、ヒット商品を生み出したいなら、課題解決を目指すのでは足りないかもしれません。マイナスをゼロにするだけではなく、ゼロにプラスを上乗せする発想が必要です。
「こし専用腰ひも」というオリジナル商品を開発したきっかけは、日舞の師範とのたわいない会話がきっかけでした。市販されている当時の腰紐は羊毛(モスリン)かナイロンでつくられていることが多く、これでは舞台で踊っているうちにずれてしまいがちだということで、舞台の踊り手はみんな、滑らない晒しで自作しているというのです。確かに摩擦係数は、綿がいちばん大きいのです。でも当時の業界に綿でつくった腰紐は1本もありませんでした。そこで綿の腰紐、胸紐を思いつき、つくることにしたのです。
筆者はまず、素材をプリント柄の綿に決めました。綿は摩擦力が高く、なかなかずれないという特徴があることは先に述べましたが、それにプラス、ワクワク感を上乗せするためです。また、紐の幅も従来品よりぐっと狭くした「こし専用腰ひも」と、ぎゅっと締め付けなくても摩擦力で止まるように広めの幅にした「幅広胸ひも」をつくりました。
当時の市場には、白やピンク単色の腰紐しかありませんでしたが、今では本当にさまざまな柄の紐があり、綿素材も増えました。
きもののように個性を表現する商品で、機能性だけでなく、お客さまに楽しんでいただくこともちょっと配慮したことによって、商品に「ワクワク感」を盛り込めたのではないかと思います。
「衿のたわみ」が、ユーザーのストレスだったとは…
すべての商品が狙いどおりに受け入れられるわけではありません。なかには、こちらが予想もしていなかった点が受け、ヒット商品につながるケースもあります。一つの例が、きもの用ハンガーの「和えもん」です。
和えもんはもともと、都会暮らしの方をターゲットにしてつくったハンガーです。一般的なきものハンガーは、両手を広げたほどの横幅が必要で、身丈(肩から裾までの長さ)は身長ほどの長さになります。つまり、畳2枚分ほどの平らなスペースを要します。そんな大きな壁面がない都会暮らしの女性は、ドアやカーテンレールなどにきものハンガーをかけるしか方法がありません。これでは、ほかの家族に踏まれたり、通るたびに落としたりして、きものが傷んだり汚れたりする危険性があります。
そこで和えもんは、クローゼットにかけられるように肩に厚みをもたせ、生地が伸びない仕様にしました。また、裾が床に着かなくするため、きものの途中で折り返してかけられる「ブランコハンガー」を付け、ぐっとコンパクトに、きものをしまえるように工夫したのです。
ところが和えもんは、期待どおりには売れませんでした。洋服用ハンガーに似た形のものにきものをつるすことへの抵抗があったのだと思います。そして面白いことに、お客さまから最も評価されたのはクローゼットに収まることより、ハンガーの頂点部分を三角形にして衿の形にフィットさせたことだったのです。
一般的なきものハンガーの衿部分は紐だけなので、衿がくしゃりとたわむのです。これが一番のストレスだったなんて、本当に意外でした。このついでに付けた機能が思いのほかウケたため、一般的な棒状のきものハンガーに取り付ける三角形の補助具「和えもん 衿之助」を開発。こちらは、本家の和えもんより売れていて、本家の売上にも貢献しています。
商品を実際に市場に出したあと、予想外の理由でヒットにつながるケースもあります。これこそ、マーケットインですが、まずは商品をつくって市場に問うてみるのもよいでしょう。
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