「脱税事件=大企業」というイメージが油断を生む
マルサの強制調査ではなく、税務署による「任意調査」で脱税となり、税務署への修正申告で完了した場合は、刑事告発されることはありません。
マルサの強制調査が入るのか、税務署の任意調査でとどまるのか、その判断は脱税規模が関係します。もっとも、税務署による任意調査であっても、脱税による金銭的なペナルティはマルサによる強制調査とまったく同じです。起訴は免れても、追加の納税は粛々と行わなければなりません。
中小企業を営む人のなかには「うちは売上規模も小さいし、マルサに目をつけられることもないだろう」と捉えている人も多いでしょう。しかし勘違いしてはいけないのは、マルサこそが中小企業を対象とした脱税調査部隊だということです。
テレビのニュースなどで大々的に報じられる著名企業の大型修正申告事件は大企業の話で、そうした大規模な事案は別部署に当たる「国税局調査部」が担当しています。国税局調査部は基本として資本金1億円以上の法人の調査を担当する部隊です。
大企業の脱税事件は影響範囲が広く、摘発して告発するには脱税の経緯から手口、資金・取引の流れまで、すべて立証しなければなりません。さらに誰が脱税を指示したのかという指示系統も複雑なため、すべてを立証していくのは困難です。
一方、中小企業の脱税事件は影響範囲が小さいうえ、脱税を指示した主犯格の特定もそれほど難しくありません。たいがいは社長の手によるものですから、本人とその近辺の人物や企業に狙いを定めて調査を進めれば、ほぼ例外なく証拠に辿り着くことができるのです。
最近では脱税で摘発される金額も減少傾向にありますから、より規模の小さな企業にその矛先が向きやすくなると考えられます。「自分にはマルサは関係ない」と思っていた人は、「対岸の火事ではない」と気を引き締めてください。
以下に、中小企業の経営者が脱税に陥りやすい4つのパターンを見ていきます。
① 事業拡大の資金づくりのため
どのような業種でも、創業当初は顧客や受注量拡大のために前のめりで事業に打ち込むものです。その勢いが会社の成長を牽引していく側面も多分にありますが、反面、「脱税に手を染めてでも……」とタガを外しかねません。
その主な理由は2つで、まずは目先の現金を増やしたいと考えることです。とくにスタートアップ期は資金不足に陥りやすいため、税額を減らし、目先の現金を少しでも手元に残そうと画策する傾向があります。
もうひとつは業績アップや新規開拓のための〝必要悪〞と割り切って、裏リベートを捻出することです。取引先の役員に渡す資金をつくるために、売上を除外したり架空の経費を出したりといった不正に走るのです。
裏リベートの捻出を目的とした脱税では、そのほかに取引先の裏金づくりに加担させられるケースもあります。100の売上を120に水増しし、20をバックするといった手口です。この20を捻出するために、同様の不正を働くことになります。
② 個人的蓄財・費消のため
日本の中小企業では会社の経営者(社長)と所有者(株主)が同一であるオーナー企業が大多数です。そのため「会社のお金は自分のもの」と勘違いしている経営者も多く、立派な家に住みたい、高級車や高級腕時計を買いたいなど、私心を満たすために脱税に手を染めてしまう人がいます。あるいは愛人のための生活費やお小遣い、ソウルやマカオでの博打(主としてバカラ賭博)につぎ込んでしまうといった人もいます。
③ 税金を国に取られたくない意識が強いため
「税金に持っていかれる」と表現するように、苦労して得た利益の一部をあたかも税務署に取られるように感じている人は少なくありません。
とくに経営者は人生を賭して事業に打ち込み、身を削る努力でお金を稼ぎ出しています。「血税」という言葉がまさにその表れでしょう。
税金に対する経営者のシビアな感覚とは裏腹に、いつの時代も政治家による税金の無駄遣いといった報道は後を絶たないものです。国や政治家による税金の使い方が腑に落ちないため、「税金を国に取られるくらいなら…」という思いが脳裏に浮かぶのでしょう。私も税理士であると同時に5社のオーナーでもありますから、そう考える気持ちは理解できます。だからといって納税を違法に免れていいわけではありません。
④ 諫言者が不在のため
とくにワンマン経営者、カリスマ経営者に多いパターンです。こうした経営者は何事も自分の一存で決断し、事を運んでいきます。そのエネルギーが会社を大きく成長させる原動力でもあるわけですが、判断がいつも正しいとは限りません。間違った方向に進みそうになったとき、襟を正すよう諫言(かんげん)してくれる人物の存在が不可欠です。
しかし絶対的な権力を持ったワンマン経営者の周りはイエスマンばかりで、耳の痛い忠告をしてくれる人がいない、いわゆる「裸の王様」であるケースが多く見られます。
道を踏み外しても誰も止めてくれず、過ちに気づいた時には手がつけられない状況に陥っていた――、そんな事態も十分あり得るのです。
4つの中で当てはまる項目がひとつでもあれば、一度立ち止まり、経営の目的やビジョンを再確認する必要があるといえます。
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