ダラスを本拠とする世界最大(2019年の収益に基づく)の事業用不動産サービス会社、シービーアールイー株式会社(CBRE)。今回は、同社の「ジャパンメジャーレポート - 不動産マーケットアウトルック2021 2021年1月」より一部抜粋し、賃料が下落している「銀座エリア」の今後の動向や、コロナを機に銀座に移転や出店を検討する際のポイントを解説します。

現状を好機ととらえた銀座への「移転ニーズ」とは?

COVID-19感染症の収束が見えないなか、2021年の銀座エリアのリテール賃貸市場は、出店ニーズの牽引役が不在となりそうだ。ただし、出店ニーズとして3つのポイントが挙げられる。

 

1つ目は、すでに銀座エリアに出店しているリテーラーによる移転だ。移転理由として、既存ビルの建て替えや定期借家契約の満了、立地改善や面積の適正化などがある。

 

コロナ禍以前は、建て替えに伴う移転ニーズを持つリテーラーから、銀座エリアの店舗維持のためには相場を超える賃料もいとわない姿勢がみられていた。しかし現在は、好立地の募集物件が複数あり、よりよい賃貸条件で出店できる可能性を探るなど、物件選定に時間を掛けている。インバウンド需要や来街者数が減少しており(FIGURE7)、急ぐ必要性もなくなっている。

 

出所:NTTドコモモバイル空間統計、CBRE、2020年11月
出所:NTTドコモモバイル空間統計、CBRE、2020年11月


立地改善や面積の適正化を考える多くのリテーラーは、好立地の募集物件が複数ある現在の市場を好機と捉えている。なかには、既存店舗の契約が残存するリテーラーが、後継テナントを探しつつ移転先を検討している事例が複数ある。日本ではCOVID-19の感染者数が比較的抑制されていることを踏まえ、移転に前向きな海外ブランドもみられる。

 

2つ目は、銀座エリアに路面店舗がないリテーラーによる新規出店だ。その多くは、コロナ禍による業績へのマイナスの影響が比較的小さかった、またはブランドの認知度を向上させたいリテーラーだ。希少な一等地を除けば賃料相場が下がっているため、予算内で希望条件に合う物件を借りられるようになったリテーラーが、出店に一層前向きになっている事例がある。

 

3つ目は、ラグジュアリーブランドによる出店ニーズだ。コロナ禍によって2020年のラグジュアリー市場は縮小したものの、もとより利益率の高いビジネスモデルであるため、企業体力がある。そのため、出店エリアはハイストリートのなかでも好立地に限定されるものの、ブランドの出店戦略に合致する物件があれば、コロナ禍以前の賃料水準で獲得に動く可能性がある。

 

出所:CBRE、2020年11月
出所:CBRE、2020年11月

2021年の賃料は落ち込むも、2022年Q1に回復と予測

銀座ハイストリート賃料は、2016年Q2をピークに下落したものの、2017年Q3には底入れした。その後しばらくは横ばいが続き、2018年Q4と2019年Q3にそれぞれ対前期比0.8%上昇。しかし、2020年に入ってCOVID-19感染拡大の影響を受け、2020年Q2は同*52.2%減、2020年Q3は同2.1%減となり、現在は24.7万円/坪となっている。

 

*5 新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑み、2020年Q1はプライム賃料、ハイストリート賃料、空室率の集計をおこなっていない。賃料については、成約事例の大幅な減少により賃料想定が困難になっていたこと、空室率については、感染リスクを考慮し繁華街での調査を控えたことによる。

 

2021年の賃料はさらに落ち込むことが予想される。理由として3つ挙げられる。

 

1つ目は、これまでの賃料上昇を牽引したインバウンド需要の回復に時間が掛かりそうなこと。2つ目は、外出自粛やテレワークの浸透などによって、エリアの来街者数がコロナ禍以前の水準には戻っていないこと。3つ目は、募集物件が増えたことでリテーラーの選択肢が広がり、賃貸条件を吟味しながら物件の選定に時間を掛けていることだ。

 

そのため、銀座ハイストリート賃料は2021年Q4までの1年の間に、2020年Q3時点の24.7万円から7.5%下落することを予測する。2021年夏に延期された東京オリンピックは、予定通り開催されるとしても規模が縮小される見通しだ。そうであれば、従前の見込みに比べて経済波及効果が小さくなるほか、消費者マインドやリテーラーの出店ニーズも、コロナ禍以前の水準には届かないことが考えられる。

 

ただし、経済の回復が続くことによって2022年Q1には賃料が上昇に転じるとみられるため、向こう2年間では4.3%減を予測する。なお、銀座4丁目の交差点に近い超一等地を対象としたプライム賃料は、横ばいで推移すると予測する。リテーラーの出店ニーズは減少しているものの、株高による資産効果などを背景に、出店に前向きなラグジュアリーブランドがみられていることが理由となる。

 

CBREが2020年10月に行ったテナントアンケート*6では、リテーラーの出店意欲が感じられている(FIGURE9)。今後、12ヵ月の実店舗に関する計画について訊いたところ、65.6%が「新規出店をする」と回答、最も高い割合となった。多くのリテーラーが、マーケットや物件の調査を行いながら、ブランド戦略に合った出店機会をうかがっていることが示唆される。

 

出所:CBRE、2020年11月
出所:CBRE、2020年11月

 

関連記事:ジャパンメジャーレポート - 不動産マーケットアウトルック2021 2021年1月

 

 

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