働き盛りの長男の死にショックを受けた老父は、あとを追うように急逝。それにより相続が発生しましたが、「長男の子らに」とのメモ書きがあった収益不動産は配偶者である義母が相続。長男の子らには「私が死んだらあげる」という言葉とともに「死因贈与契約」を締結しましたが、果たしてそれで問題ないのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
早すぎる夫の死、あとを追うかのように義父も…
今回の相談者は、50代会社員の伊藤さんです。伊藤さんは結婚後、夫の両親の自宅の隣に家を構え、2人の子どもにも恵まれ、幸せに過ごしてきました。夫は2人きょうだいで、3歳年下の妹がいます。妹は既婚で、配偶者とアクセサリー制作・販売の自営業を営んでいます。
伊藤さんは、長男と結婚したのだから、ゆくゆくは夫の両親の面倒を看るものと心に決めていましたが、夫は病に倒れ、両親より早く旅立ってしまいました。その後、夫の父親があとを追うように急逝し、相続が発生しました。
伊藤さんは、義父の相続の件で気がかりなことがあり、筆者のもとに相談に見えました。
夫の父親の財産は、自宅不動産と賃貸ビル、数千万円の預貯金で、相続税の申告が必要な額でした。相続人は、義母、夫の妹、夫の代襲相続人となる伊藤さんの2人の子ども(いずれも大学生)です。
●相続人関係図
被相続人(推定):母親
相続人(推定) :長男(故人)の子ども2人(18歳、19歳)
:長女(既婚、自営業)
●相談者 :長男の配偶者
●相続財産 :自宅不動産、賃貸ビル、預貯金
「長男の子らに賃貸ビルを」義父の遺志を無視した義母
義父が残した書類等の整理を進めていると、書斎の金庫から、財産分与に関するメモが出てきました。そこには、「賃貸ビルは伊藤さんの子ども2人に相続させたい」とありました。
しかし義母は、賃貸収入は生活費として必要なので、賃貸ビルは自分が相続するつもりだといいました。顧問税理士からも、義母が相続したほうが節税になるとの意見があります。伊藤さんは相続人ではなく、子どもたちもまだ未成年であるため、すべてを義母の考えにゆだねることになりました。
「大丈夫よ。おばあちゃんが死んだらあのビルはあげる。おじいちゃんのメモ通りにね」義母は伊藤さんの子どもたちにそれだけ伝えると、あとは夫の妹である長女とふたり、頭を突き合わせて相談を続けました。
今回の義父の相続では、すべての財産を義母のものとし、伊藤さんの子どもたちの相続財産はありませんでした。話を聞くと、義妹はビルの賃貸収入をわけてもらっているようです。
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株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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