ローン返済が滞ると所有権がなくなる
35年ローンが生み出したマイホームへの幻想
日本の不動産には、登記制度と呼ばれる権利保全の仕組みがある。
全国津々浦々に設けられている法務局に、自らが保有する不動産の内容を登記すれば、その所有権を主張できる有力な根拠となるのである。
不動産の所有権登記は、甲区と乙区に分かれている。甲区には、所有者の名前や住所が記されている。乙区には、その不動産に対する所有権以外の権利が記される。具体的には抵当権などだ。
新築マンションを35年ローンで購入した場合、その区分所有権の登記簿において、甲区には、自分の名前や住所が記載される。乙区には、住宅ローンを借り入れた金融機関の名称や住所、そして金額が記される。金額とはつまり、住宅ローンの借入額だ。
一方、マンション購入者と金融機関のあいだには、金銭消費貸借契約が結ばれている。そのなかには必ず、返済が滞ると抵当権を実行する旨の条項が盛られている。抵当権の実行とはすなわち、所有権の強制移転である。これをやられると、住宅ローンを組んでマンションを購入した人は、強制的に所有権を喪失させられる。
そこに至る過程を簡単に説明する。
まず、住宅ローンの返済が滞ると、金融機関は区分所有者(新築マンションの購入者)に対して、任意売却による一括返済を迫る。区分所有者がこれを拒むと、裁判所に競売を申し立てられる。競売が実施されると、そのマンションの所有権は、強制的に競落者に移転するという仕組みだ。
仮にローンの残債が競落価格よりも多かった場合は、元の購入者は差額の返済義務を負う。それを逃れようとするには、自己破産しかなくなる。なんとも残酷なシステムだ。
つまり、新築マンションを35年返済のローンで購入しても、返済を続けないかぎり、その所有権は完全に購入者のものにはならないのだ。
かつての日本には、数年分の賃金を、親が先取りしてしまう「年季奉公」という悪弊があった。途中で奉公をやめるには、親が先取りした賃金の未返済分を一括返済しなければならなかった。