マンションを購入することはリスクである
「持ち家信仰」はもう古い
そもそも、持ち家でないといけない、という価値観を見直すべきだ。多くの都市生活者が「自宅を所有したい」と考えたのは、戦後のことではないかと思う。主に明治期を生きた夏目漱石や森鷗外は、生涯にわたって借家住まいだった。
そのことを恥じているようなところは見受けられない。
東京や大阪に住む人が「自宅を所有したい」と熱望するのは、敗戦後の住宅難の時代に萌芽し、現代にまで受け継がれている偏った価値観だと私は考える。
1970年代や80年代には、分譲住宅の抽選に何十回もはずれた、という人がたくさんいた。信じられない話だが、ひとつの住戸に何十件もの申し込みが入って、高倍率の抽選になることが日常の風景だったのだ。
今でも一部の新築マンションではそういう光景が見られる。しかし、それはかなりめずらしいことだ。
住宅を買う、ということが困難であった時代を生きた人々を親に持つのが、今の30代から40代にかけての住宅需要層である。マンション業界にとってはターゲット層と言える世代だ。
彼らには、親の世代が味わった住宅取得に苦労したという経験が、遺伝子として受け継がれているのかもしれない。
しかし、今は少子高齢化の時代である。そして人口減少が進んでいる。
にもかかわらず、鉄筋コンクリート造で建設されたマンションのストックは増える一方だ。だから日本全国で空き家が増えている。東京でも、空き家が目立っている。このままだと、昔のような住宅難の時代は来そうにない。それどころか、この国がいまだに経験したことがない住宅の大余剰時代がやってくる。というか、地方ではすでにそうなっている。
そのことに気がつけば、マンションを購入する、というのは大きなリスクであることが見えている。
そのことにぜひ気づいていただきたい。そして、持ち家でなければならない、という価値観も別の方向から眺めていただきたい。