毎年恒例、幻冬舎ゴールドオンラインの相続特集が開幕! 本連載では税理士法人田尻会計の税理士・古沢暢子氏が相続トラブルについて解説していきます。今回は、法人の特定資産の買換え特例を使った課税の繰り延べによる税金対策について、見ていきましょう。※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

今回の事例では決算期を跨いで規定を適用することとなり、さらに、アパート建築に1年以上の時間がかかることから、税務署へは期間延長の申請書を提出して対処しました。

売却益3億円を6,000万円に圧縮、課税繰り延べを実現

Aさんは買換え資産の要件に適合する物件をすぐに探しはじめ、都内の中古テナントビル購入を決定しました。また、お父様から相続により取得した土地を都内と埼玉県に所有していたので、その土地の上に会社で賃貸アパートを建築し、活用することにしました。買換え資産取得のための資金調達について、日頃から関係が良好であった金融機関が迅速な対応をしてくれたことも、計画が順調に進んだ大きな要因であったと思われます。

 

工場及び工場敷地の売却益は3億円でしたが、2.5億円の買換え資産を取得して特例を適用した結果、その売却益を6,000万円まで圧縮し、課税の繰り延べを実現できました※1

 

特例適用で、課税の繰り延べを実現!(画像はイメージです/PIXTA)
特例適用で、課税の繰り延べを実現!(画像はイメージです/PIXTA)

 

※1…法人の特定資産の買換え特例:通常は売却益の80%の繰り延べが可能ですが、2015年度の改正により、地方から大都市への買換え等一定の場合は繰延割合が75%または70%に引き下げられています。

法人の特定資産の買換え特例のメリット・デメリット

法人の特定資産の買換え特例のメリットは、この事例のように、圧縮記帳の適用によって買換え時の税額が抑えられることにあります

 

せっかく資産を売却したのに、多額の税金を支払って手元にあまり資金が残らなかった、というのでは意味がないと考える方がほとんどでしょう。売却益への課税を繰り延べることによって、税金として納付すべきであった資金を、新しい事業投資へ有効活用することができるのです。

 

一方で、課税の繰り延べをして納付税額を少なくした事業年度の翌事業年度以降は、取得した資産が建物など減価償却資産であれば、毎期の減価償却費が減少した結果、利益が増えることがあります。また土地であれば取得した時の費用が抑えられているため、売却時に多額の利益がでる場合もあるでしょう。

 

繰延べた課税相当額をその後の事業年度において有効に利用できなければ、この特例はデメリットにもなるということです。

 

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