商売上手ではないラーメン店主に、まさかのお願いが
■資産家の養子となり別荘を手にした幸運の主
今回は筆者の友人の事例を紹介します。Aさんは、観光地・温泉場として全国に知られる地域で、亡くなった両親から受け継いだラーメン店を営んでいました。「昭和レトロ」といえば聞こえはいいですが、店舗はお世辞にも立派とはいえません。
おまけにAさん自身は商売上手でもなく、親しくする数少ない常連客が来店すると、暖簾を引っ込め、メニューにはない肴をふるまってしまう、そんな男です。
店舗近くの別荘に住むCさん夫妻も、そうしたお人好しのAさんと懐かしい味わいのラーメンを愛する常連客でした。
ほどなくCさんのご主人が他界され、お子さんのいないC夫人を心配したAさんが食事の支度を手伝ったり、車で買い物の送り迎えをしたりと、生活のサポートをするようになりました。Aさんも天涯孤独でしたから、C夫人に母親の面影を見たのかもしれません。
そんな交流が何年か続き、C夫人もAさんが息子のように思えてきたのでしょう。自分の養子にならないかと、Aさんに要望しました。しかし、彼は承知しませんでした。遠慮したというより、亡くなった実親への愛着があったからだと、友人としては想像します。
やがて、C夫人も病を患ってしまいます。病院の送り迎えをするたびに、「このまま自分は家族に看取られることなく最期を迎えるのだ」と嘆く夫人に、ついにAさんも折れ、養子縁組を承諾しました。
養子縁組には、「特別養子縁組」と「普通養子縁組」の2種類があります。「特別養子縁組」は従前までの親子関係をすべて断ち、新たな親子関係を創設するもので、家庭裁判所の審判を要します。C夫人とAさんが選択したのは、実親との親子関係も継続できる「普通養子縁組」でした。養子の戸籍にも、養親と並んで実親の名前が記載されます。