「近所の目が」腰の重いAさんだったが…
ご高齢のC夫人は昨年、病が悪化し、亡くなりました。望み通り、家族であるAさんに看取られて。そして、Aさんには温泉地の別荘と、もうひとつ、C夫妻が夏を過ごしていた白樺林に囲まれた避暑地の別荘が、遺産として転がり込んだのです。
■「土砂災害特別警戒区域」の発表でツキが一転!?
C夫人はご存命中、Aさんに「相続放棄」や「財産放棄」(遺産放棄)しないように約束させました。そして、2軒の別荘を売却し、それを資金としてAさんのラーメン店を改装するか、あるいはもっと来店客が訪れやすい場所に移転することを望んでいました。
幸い温泉地の別荘も、避暑地の別荘も、人気の別荘地にあったため、すぐに買い手がつきました。当然、相続不動産を売却し現金化しても、評価額に基づいた相続税の納税義務はあります。それでも、納税後に店舗を新しくする資金はAさんの手元へ十二分に残ったはずです。
ところが、一向にAさんは改装する気配を見せません。
Aさんに理由を尋ねたところ、「近所の目がある」と言うのです。多くの人で賑わう観光地とはいえ、住民は限られた狭い町です。C夫人が亡くなってすぐに店舗を拡充などしたら、周囲の人にどんな噂をされるかわからないと恐れているのでした。
やりようによっては、店舗を増やしてチェーン店化し、事業として拡大したのち、フランチャイズ権を売却してさらに財産を増やすことも不可能ではありません。商売っ気がなさすぎるにもほどがあります。Aさんの性格を知り尽くしている友人たちは嘆息するしかありませんでした。
そんなAさんが、ある日、慌てふためいて電話をよこしてきました。
避暑地の別荘のある県が、近ごろ「土砂災害特別警戒区域」の見直しをしました。そこでAさんがハザードマップを確認したところ、その土地がわずかながら区域内にかかっていたのです。
Aさんは、別荘の売却先に知らせたほうがいいか、クレームが来ないかと心配して連絡をしてきました。