毎年恒例、幻冬舎ゴールドオンラインの相続特集が開幕! 本連載では岡野雄志税理士が相続トラブル事例について解説していきます。今回は、ひょんなことから富豪一家の別荘を相続したラーメン店主の事例。 ※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

「購入者のことよりも、あなたの相続税は大丈夫?」

もちろん、不動産の売買契約が交わされた時点で、その土地が「土砂災害特別警戒区域」にあることが判明していれば、購入者に重要事項説明として伝える義務があります。しかし、契約時点では判明していなかったこと、「土砂災害特別警戒区域」は見直しが発表されるまでに時間がかかることを伝え、ひとまずはAさんを落ち着かせました。

 

土砂災害防止法による警戒区域には、危険度の高い「土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)と、土砂災害の可能性がある「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)があります。降雨などの影響を受け危険度は変化するので、現地測量や土石到達の範囲算出といった調査を行うため、見直し発表までに月日を要します。調査の結果、「土砂災害警戒区域」が「土砂災害特別警戒区域」になることや「土砂災害特別警戒区域」が解除されることもあります。

 

■相続税還付を果たしたその後の顛末は…

 

人のいいAさんはまだ購入者を案じていましたが、買い手は大手の不動産業者であったため、いずれ大規模な対策工事が行われることでしょう。それよりも、相続税専門の税理士という職業柄、Aさんの相続税のことが気になり、相続不動産の評価額見直しを申し出ました。

 

というのも、平成30(2018)年12月に財産評価基本通達が一部改正され、「土砂災害特別警戒区域内の宅地評価」が新設されたからです。「平成31年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用」とされているので、Aさんの相続した別荘地はまさに当てはまります。

 

ただし、レッドゾーンの「土砂災害特別警戒区域」内にある土地は相続税減額の対象となりますが、イエローゾーンの「土砂災害警戒区域」は対象となりません。そこで、現地と役所の再調査を行って、徹底的に評価額の見直しをしました。

 

すると、Aさんが売却した裏側にある崖地の土地も、レッドゾーンに含まれることが判明しました。レッドゾーンは開発行為の制限や建築物の構造に対して厳しい規制が設けられているため売却には適しませんが、相続税を減額するための評価見直しには適用できます。

 

相続税還付のための手続き「更正の請求」を行い、近々、Aさんには超過分の税金が1,000万円近く戻るはずです。その後、はたしてAさんが店舗を改修、または移転するのか。友人としては、正直なところ、どこか懐かしい味わいと居心地を保ってくれたほうが嬉しい気がします。

 

 

岡野 雄志

岡野雄志税理士事務所 所長/税理士

 

 

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