60代夫婦、念願叶ってマイホーム購入も…突然「税務署」から1通の封書が送られてきたワケ【税務調査の実態】

60代夫婦、念願叶ってマイホーム購入も…突然「税務署」から1通の封書が送られてきたワケ【税務調査の実態】
(写真はイメージです/PIXTA)

憧れの終の棲家を手にした仲良し夫婦のもとに税務署からの「お尋ね」が……。一体なぜなのでしょうか? 本記事では事例とともに岡野相続税理士法人の代表社員、岡野雄志税理士が税務調査の実態を解説します。

海の見える家に住みたい!貯金して夢を叶えた老夫婦

Cさんはいわゆる転勤族で、役職に就いてからも全国を転々とする生活を送ってきました。そのため、老後は自然豊かな環境でのんびり暮らしたいと思い、奥様とも「子供たちが無事巣立って定年を迎えたら、海の見える家で暮らしたいね」と話し合っていました。

 

転勤の多いCさんを支えるため、奥様は専業主婦として家庭を守ってきました。そんな奥様のためにCさんは銀行口座を作り、ボーナスなどを預金して、コツコツ住宅購入資金を貯めてきました。また、奥様も家計をやりくりしたお金を時折その口座に預けました。

 

やがて子供たちも独立し、それぞれに家族を持ち、Cさんも無事に定年退職のときを迎えました。そして、例の銀行口座に貯めていた資金とCさんの退職金を合わせて、高台の別荘地に建つ、念願の海を望む家を奥様と共有名義で購入することができました。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

自然に恵まれながらも、別荘地周辺には商店や病院などの施設も整い、暮らしは快適でした。近隣住民も老後に別荘への永住を決めた人が多く、話も合い、地元の人々も親切でした。週末には、Cさんの子供たちが孫を連れて遊びに来るので寂しい思いはしません。

 

まさに理想の終の棲家を手に入れることができたと、Cさん夫妻は満足していました。朝に夕に夫婦揃って海の景色を楽しみ、Cさんは庭仕事や陶芸に精を出し、奥様は得意のパンやケーキを焼いてご近所にお裾わけする……。そんな暮らしを満喫していました。

 

ところがある日、C家に届いた1通のお知らせが夫婦を震え上がらせました。

税務署が贈与税の無申告を指摘…50万円超の加算税!

C家に届いたお知らせ、それは税務署からの「お尋ね」でした。お尋ねですから、いわば税務署からのアンケートのようなもので、質問項目に回答して期日までに返送します。お尋ねにはいろいろ種類がありますが、不動産購入後に来ることが最も多いとされます。

 

お尋ねでは、不動産購入の際の支払金額の調達方法について質問されます。自分名義の預貯金からか、それとも家族名義の預貯金から支払ったのか、住宅ローンを利用したのか、贈与や相続・遺贈によるものなのか……というように、詳細に回答しなければなりません。

 

お尋ねを無視して回答せずにいると、さらにお尋ねの督促状が届きます。この督促状も無視すると、「税務調査」に入られる可能性があります。Cさんはまじめな方ですから、税務署からのお尋ねに対してきちんと期日までに回答・返送しました。

 

ところが、後日、C家に再び税務署から電話がかかってきました。それは、Cさんの奥様に贈与税の申告・納税をするように促す電話でした。Cさんも、奥様も、驚愕しました。夫婦で一緒に貯めた預金から別荘地の住宅を買ったので、贈与という認識はお互いにありません。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

しかし、Cさんが銀行に開いた口座は奥様名義で、その貯蓄の多くをCさんが入金し、通帳も、カードも、Cさんが管理していました。口座名義人と実際に入金・管理している人が異なる預貯金口座は「名義預金」とみなされ、最も「税務調査」の対象になりやすいのです。

 

Cさんの場合、その口座に入金していた金額に基づいて、夫婦で建物の持分を決めていました。ただ、実際は前述のとおり、Cさんのボーナスと生活費の残金から成り立つものであり、実質的にはCさんの名義預金といえるでしょう。

 

この場合、Cさんから奥様へ共有建物の持分の贈与があったとされ、奥様は贈与があった年の翌年の2月1日~3月15日までに贈与税の申告・納税を行うべきでした。奥様が贈与税を支払えない場合、贈与者であるCさんが贈与税を負担しなければいけません。

 

贈与税の納期限までに申告・納税を行わないと、本来の贈与税に加え、延滞税や無申告加算税といったペナルティが発生します。

 

■延滞税の税率

納期限の翌日から2ヵ月間は、年7.3%と延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い割合。その後の期間は、14.6%と延滞税特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合。

 

■無申告加算税の税率

自主的に申告すれば5%。税務調査前に申告すれば、贈与税額が50万円以下なら10%、50万円超なら15%。税務調査後に申告の場合、贈与税額が50万円以下なら15%、50万円超なら20%。

 

Cさん夫妻の場合は、奥様名義の建物の価額は約3,000万円、贈与税額は以下のようになります。

 

(3,000万円-基礎控除110万円)×税率50%-控除額250万円

=贈与税額1,195万円

 

また、Cさん夫妻の場合は、税務調査に入られる前に、税務署から電話で修正するよう「行政指導」を受けたあとの自主申告でしたので、無申告加算税は税率5%で済むでしょう。それでも、下記金額が加算されてしまいます。

 

贈与税額1,195万円×税率5%=無申告加算税額59万7,500円

 

なお、令和5年度税制改正で、無申告に対するさらなる厳しいルールが法制化される予定です。これまで無申告加算税には50万円以下と50万円超の税率が制定されていましたが、新たに300万円超という区分が設けられ、最高税率は30%にも達します。

 

どんなに仲のいい夫婦で、協力して貯蓄するとしても、預貯金口座は単独名義でしか開設できないので、別々の口座にすべきです。夫婦共有口座は資金の持主が曖昧になりやすいだけでなく、税務調査の対象となりやすいことを心得ておきましょう。

 

それにしても、税務署はなぜ夫婦間の贈与にまで気がつくのでしょう?

 

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