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長男死去…未成年の孫に将来的には事業を託したい社長
突然、社長のひとり息子がこの世を去ったのは、2年前の夏のことでした。社長がショックを受けたのはいうまでもありません。それ以上にショックが大きかったのは、亡き息子の長男、つまり社長の孫でした。中学も休みがちになり、次第に素行不良が目立ってきました。孫の成績は下がり、高校進学も拒むようになりました。
困り果てた嫁に相談され、社長夫妻がしばらく孫を預かることになりました。試しに社長の工場で手伝わせてみると、意外にも素直に何でもこなします。熟練の職人に厳しくいわれても、若い見習いたちと工夫を重ねています。もしかしたら、「孫にはこの仕事が合っているのかもしれない」社長は思い始めました。
長男が急逝し、コロナ禍で経営も苦しい中、自分がもう少し年老いたら、この工場はたたむしかないなと考えていた社長の心にも次第に希望が湧いてきました。しかし、孫はまだ15歳です。職工としても、経営者としても、まだまだ経験を積まなければならないことがあります。少なくとも10年はかかるだろうと、社長は思いました。
自分が元気なうちは何とか踏ん張って工場を守っていくとしても、万が一、自分に何かあったら……。社長夫妻には、亡き長男のほかに3人の娘がいましたが、誰ひとり家業に興味がないどころか、早く工場を閉めて引退するよう勧めてきます。社員を路頭に迷わす訳にはいかないと拒否してきましたが、自分がこの世を去ったら、工場は閉鎖され、遺産分割されてしまうでしょう。
もちろん、親権者の承諾があれば、生前贈与による未成年者への自社株譲渡も可能です。ただ、社長自身、未成年の孫へ自社株の多くを渡してしまうのは気が進みません。社員の反発も予想されます。第一、いまはまだ孫自身、工場を承継するかどうか判断するのは難しいでしょう。
しかし、もしいますぐ自分に何かあったとしても、工場を相続財産として遺産分割してほしくない、少なくとも孫が成人するまでは工場の運営を維持してほしいというのが、社長の願いです。孫が成人すれば、自らの意思で工場を相続するかどうか決められるからです。
考えあぐねて税理士や弁護士にも相談し、社長が選択したのは遺言書作成という方法でした。
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