本人が亡くなれば「成年後見人の役目」は終わりだが…
ここからは、成年“被”後見人が死亡した場合について確認していきます。成年“被”後見人(本人)の死亡により、成年後見人の任務は終了し、差し迫った事情がある場合を除き、成年後見人の権限を行使することができなくなります。
もっとも、成年後見人は、任務が終了しても、任務終了に伴う事務を行う必要があります。任務が終了した成年後見人は、所定の手続を経て、本人の財産を相続人に引き継ぎます。
民法改正(平成28年10月13日施行)により、成年後見人が本人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容およびその手続が明確化され、必要があるときは、次の死後事務を行うことができるとされました。
1. 個々の相続財産の保存に必要な行為
(例:相続財産に属する建物に雨漏りがある場合にこれを修繕する行為)
2. 弁済期が到来した債務の弁済
(例:成年“被”後見人の医療費、入院費及び公共料金等の支払)
3. その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為(1、2に当たる行為を除く。)※
※ 成年後見人が本人の相続人である場合を除き、3の行為につき、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
「成年後見人」「成年“被”後見人」ともに相続人の場合
それでは、相続人の中に成年“被”後見人がいる場合は、どうなるでしょうか? 相続人の中に成年“被”後見人(本人)がいる場合は、その成年後見人が本人のために遺産分割協議を行います。遺産分割協議は、相続人全員の合意を要しますが、成年“被”後見人が不利になる内容の遺産分割案では、成年後見人が合意しないでしょう。遺産分割は、原則として、成年“被”後見人の取得分が法定相続分を下回らないようにすることが求められます。
【専門用語】
法定相続分:民法で定めた各相続人の相続する割合
成年後見人と成年“被”後見人との間で、利害が相反する行為については、成年後見人の権限が制限されます。例えば、成年後見人と成年“被”後見人が共に相続人となる遺産分割協議は、利益相反行為に該当します。
成年後見人は、成年“被”後見人の利益を確保するために遺産分割協議を行うべきところ、成年後見人も共に相続人となるときは、成年後見人が自己の利益を優先させる可能性があります。
この場合、家庭裁判所に申立てをして、成年後見人とは別に特別代理人を選任してもらう必要があります。選任された特別代理人が成年“被”後見人のために遺産分割協議を行います。
一方で、家庭裁判所が、成年後見人のほかに、成年後見監督人も選任している場合には、その成年後見監督人が本人のために遺産分割協議を行いますので、特別代理人は不要です。成年後見監督人とは、成年後見人の事務を監督する者のことをいいます。
【参考】相続人の中に成年被後見人がいる場合の遺産分割協議の留意点
続いて、相続人の中に成年“被”後見人がいる場合の遺産分割協議について、誤認しやすいと思われる(実務で質問が多い)点を補足します。
居住用不動産の処分をするときに家庭裁判所の許可を要するのは、成年“被”後見人の居住用不動産の処分をするときです。被相続人の居住用不動産の処分をするときには、家庭裁判所の許可は求められていません。
加えて、「被相続人」が生前所有していた居住用不動産を遺産分割するとき、その居住用不動産を必ず「成年“被”後見人」である相続人に取得させなければならないとする決まりもありません。成年“被”後見人の生活の本拠が介護施設等になっていることもあるからです。
最後に、成年後見人が成年“被”後見人の法定代理人として遺産分割協議を行う場合、成年“被”後見人の法定相続分を確保しなければなりませんが、遺産の分け方まで法律で定められているわけではありません。成年後見人から、極端に成年“被”後見人に有利な分け方を提案されることがあるかもしれませんが、そうすると、他の相続人の利益を害することになり、遺産分割協議がまとまらないこともあります。そうした点にご留意ください。
坂本 政史
公認会計士・税理士
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