社長の認知症対策には「成年後見人」が効果的です。資産を守ってくれることから、社長の「味方」ともいうべきその存在。しかしながら、過去には成年後見人が不正に手を染めた事件も…。法的な観点から、成年後見人の運用を解説。※本連載は、坂本政史氏の著書『社長がボケた。事業承継はどうする?』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

成年後見人の「不正な使い込み」…被害総額はいくら?

社長が認知症になると、会社だけでなく個人資産にもリスクが及びます。前回の記事『恐ろしい…「社長が認知症を発症した」会社の知られざる末路』(関連記事参照)では、発症後に成年後見人が付された場合の財産管理について解説しました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

成年後見人が付されたからといって、必ずしも財産が守られるとは限りません。

 

ここで、過去の成年後見人による不正件数及び被害総額を示します。成年後見人に選任された専門家のことを「専門職後見人」といいますが、一部の専門職後見人が、不正事件を起こしてしまっています(図表1、2)。

 

※『日本経済新聞』2016・4・14記事「成年後見人、専門職の不正が最多 15年37件」及び2017・3・25記事「成年後見、弁護士ら不正30件 昨年」に掲載されている最高裁調査結果を基に筆者作成。
[図表1]不正・被害総額の推移(全体) ※『日本経済新聞』2016・4・14記事「成年後見人、専門職の不正が最多 15年37件」及び2017・3・25記事「成年後見、弁護士ら不正30件 昨年」に掲載されている最高裁調査結果を基に筆者作成。

 

※『日本経済新聞』2016・4・14記事「成年後見人、専門職の不正が最多15年37件」及び2017・3・25記事「成年後見、弁護士ら不正30件昨年」に掲載されている最高裁調査結果を基に筆者作成。
[図表2]専門職後見人による不正・被害額の推移 ※『日本経済新聞』2016・4・14記事「成年後見人、専門職の不正が最多15年37件」及び2017・3・25記事「成年後見、弁護士ら不正30件昨年」に掲載されている最高裁調査結果を基に筆者作成。

不正事件が起きる3つの要因

どうして成年後見人による不正事件が起きるのでしょうか? その原因を探るヒントは、不正のトライアングル理論にあります。1940年代に、米国の組織犯罪研究者であるドナルド・R・クレッシー氏が提唱した理論です。

 

この理論では、「不正に関与しようとする動機・プレッシャー」、「不正を実行する機会」、「不正に対する姿勢・正当化」の3つの要因により、不正行為が起こるとしています。実は、公認会計士が行う監査にも取り入れられている理論です。この理論に当てはめると、成年後見人による不正が行われる要因が浮き彫りになります。

 

[図表3]不正のトライアングル理論

親族でも「刑事責任」問題…「不正な使い込み」の末路

他者の財産を管理していると、いつか自分の財産のように感じてしまうことがあるのでしょうか? 専門職後見人による不正事件がそのことを物語っています。ましてや、身内の財産を管理する場合は尚更、自分の財産のように感じることがあるのでしょう。本人の親族が後見人であるからといって、不正行為が許されるわけではありません。

 

家庭裁判所や成年後見監督人が、成年後見人を刑事告発することがあります。実際に、成年後見人が逮捕されている事件も存在します。

 

成年後見人が不正な使い込みをした場合、次のような責任を問われることがあることを押さえておきましょう。

 

■成年後見人を解任される。

■損害賠償責任を問われる。

■業務上横領の罪で刑事責任を問われる。

■背任罪で刑事責任を問われる。

 

成年後見人が、成年“被”後見人の財産を横領する等の不正行為を行うと、業務上横領の罪で逮捕されることがありますが、親族後見人が、成年“被”後見人である身内の預貯金を着服横領したとして、業務上横領の罪で逮捕された事件もあります。業務上横領の刑事罰は、10年以下の懲役です。さらに、成年後見人が、背任罪で刑事責任を問われることもあります(図表4)。

 

[図表4]背任罪

 

<ここを確認!>

⇒親族後見人であっても不正な使い込みにより、刑事責任が問われることがあります。

 

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社長がボケた。事業承継はどうする?

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坂本 政史

中央経済社

高齢の社長が認知症になれば、会社と後継者に大きな困難が降りかかる。 後継者が決まっていたとしても、生前に事業継承ができなくなるケースも…。 具体例をあげながら、社長が元気なうちにすべきこと、不幸にも認知症を…

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