2025年には認知症患者が700万人に達すると言われている日本。これは日本企業にとっても深刻な危機です。社長が認知症を発症すると、会社にも社長自身のプライベートにも大きな影響が及ぶからです。社長が認知症になるリスクを法的観点から解説。ここでは社長の個人資産に着目します。※本連載は、坂本政史氏の著書『社長がボケた。事業承継はどうする?』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

本人の財産を守るため、家族の希望に沿えないことも

成年後見人は、成年“被”後見人(本人)を支援します。しかし、本人のご家族の味方になるとは限りません。本人の財産を守るために、そのご家族の希望に沿えないこともあるのです。さらに、成年後見人が本人の財産を管理しますが、本人の財産が減らないように気をつけています。

 

財産管理を含む後見事務の方針は、基本的に、成年後見人の裁量に委ねられています。留意すべきは、成年後見人に与えられた権限は、「本人の利益」のために行使しなければならない点です。成年後見人は、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。その注意義務に違反し、本人に損害を与えた場合、損害賠償の責任を負うことがあります。

通常、成年後見人が付されると「贈与」できないが…

成年後見人が、本人の財産を贈与することや、本人の財産を運用(新たな投資)に回すことは、原則として認められていません。

 

ただし、「贈与の特別の必要性があり、または明らかに本人の意思に沿う場合は贈与をすることも認められるとの判断に異論はないであろう」(赤沼康弘『成年後見人の権限と限界』判タ1406号14頁)と解されています。

 

それでは、本人が孫のために毎年50万円ずつ贈与してきた場合、成年後見人が付されても、贈与を継続することはできるのでしょうか?

 

「後見人が、贈与を継続することが本人の意思に沿うものであり、本人の財産状況や他の親族の心情等に照らしても問題ないと判断した場合は、後見人の判断で贈与を継続して差し支えありません。その場合は、定期報告の際に贈与の事実についても報告してください」(東京家庭裁判所後見センター「よくある質問」Q107)とされています。

 

青年後見人が付されたら、贈与することはできないの?

「自宅の処分」には家庭裁判所の許可が必要

判断能力が不十分な方にとって、住むところはとても大切です。判断能力を失い、住むところも失う。想像するだけで怖くなりますね。

 

本人の居住用不動産を処分するときは、成年後見人だけの裁量で処分することはできません。事前に家庭裁判所の許可が必要になります。

 

このとき、留意すべき点は、適正価額で処分しなければならないことです。例えば、相場より不相当に安く売却して、本人の利益を害する売買契約は、特別の事情がない限り、認められません。

 

成年後見人が、居住用不動産処分の許可の申立てをする場合、通常、2社以上の不動産会社の査定書の提出が求められます。成年後見制度に理解ある不動産会社を探さなければなりません。

 

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社長がボケた。事業承継はどうする?

社長がボケた。事業承継はどうする?

坂本 政史

中央経済社

高齢の社長が認知症になれば、会社と後継者に大きな困難が降りかかる。 後継者が決まっていたとしても、生前に事業継承ができなくなるケースも…。 具体例をあげながら、社長が元気なうちにすべきこと、不幸にも認知症を…

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