「事業者の立場」に悩む介護職員の現実
事業者の立場、利用者の立場
事業者の立場で考えた場合、要介護度の高い入居者、重篤な入居者のほうが、区分限度額の金額が多いので、売上増のチャンスです。利用者の立場で考えた場合、いくら介護保険に基づくサービスだからと言っても、一切無料というわけではありません。所得に応じて1割から2割の自己負担が発生します。たとえば、要介護5の場合、区分限度額を40万円と仮定すると、4万円から8万円の自己負担が毎月発生するということになります。
多くのケースでは、事業者としては、区分限度額の上限まで毎月サービスを提供し、40万円の介護保険収入を見込みたいと考え、入居者の場合は、なるべく自己負担額を安く抑えたいと考えます。さまざまな議論があり、介護職員の頭を悩ましていることは、事業者の都合です。
つまり、多くの介護保険報酬を獲得するために、入居時に介護保険サービスを入居者の保有する区分限度額一杯までのケアプランを自社が雇用しているケアマネジャーに強制的に作成させ、限度額いっぱいのサービスの提供を入居者に対し強制しているのが現状です。本当に、利用者にとって必要な介護サービスとは何か、という視点で考えたケアプランではなく、区分限度額いっぱいまで介護保険サービスを利用させるという観点で不要なサービスのケアプランに入れ込んでいく。この行為に対し、多くの介護職員は疑問を持ちながら仕事をしています。
ちなみに、一般的な在宅介護、つまり、自宅での介護のケースでは、自身や家族の財布と相談しながらケアプランを作成していくのが普通です。私の周りにいるケアマネジャーの口から、「本当はもう1回通所介護に通ったほうがいいのだけれど、もうこれ以上介護保険の1割負担ができないからという理由で我慢している」というような愚痴を多く聞きます。つまり、多くの要介護者は、気楽に自身の区分限度額いっぱいを使い切ることはできず、一定の支援は家族が無償で引き受けているのです。
ではなぜ、サ高住では、このような現象が起こるのでしょうか? 一つは、無償で引き受けてくれる家族がサ高住にはいないことがあげられます。しかし、何といっても一番の理由は、サ高住の賃料や管理費などを決めて事業計画を作成する段階で、あらかじめ介護保険報酬を見込んだ事業計画を作成していることにあります。入居者の平均要介護度を3とし、区分限度額の80%を消化すると介護保険報酬はいくら?という事業計画を作り、運営を始めます。区分限度額を100%使用すること自体、なんら問題ではありません。利用するために介護保険制度があるわけですから。