資産家の父親の死後、ひとり息子が遺産の内容を洗い出していると、押し入れの奥に、母親と自分、そして3人の孫それぞれの名義の預金通帳があるのを発見。しかも合計金額はおよそ5000万円という大金です。父親名義の預貯金も同程度あり、これらの扱いに悩んでしまいます。いったいどうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
資産家のひとり息子が、がむしゃらに働き続けた事情
今回の相談者は、40代会社員の篠田さんです。資産家の父親が亡くなったが、生前も相続対策をしたこともなく、途方に暮れてしまったとのことで、相談に見えました。
篠田さんの父親は私立高校の英語教師をしていましたが、30代で退職。もともと地主の家系で、横浜市内の人気の高いエリアに複数の賃貸マンションや駐車場を所有していたため、その後はずっと賃貸業で生計を立てていました。
ひとりっ子の篠田さんは、大学まで両親と同居していましたが、就職後、親元から独立してすぐに大学の同級生と結婚しました。結婚の翌年に第1子を設け、続けて第2子が生まれたタイミングで、同じく神奈川県内の妻の実家の隣にマイホームを購入。現在は、妻・社会人の長男・長女・高校生の次男の5人で暮らしています。妻の両親は健在ですが、高齢となってきたため、最近では1日のほとんど篠田さんの自宅で過ごしています。
篠田さんの父親は、収益不動産の維持管理業務を業者に丸投げすることなく、自身でもしっかりと目を光らせ、業者の対応を含め厳しくチェックしていました。お嬢様育ちでおっとりとした母親はそんな父親を頼りにしつつ、裕福で不安のない生活を送っていたといいます。
篠田さんは就職してから、ひたすら仕事に打ち込んできました。というのも、篠田さんの配偶者は体が弱く、大学卒業後に就職したものの仕事が続かず、その後はパートに出ることもかなわなかったためです。そのような状況にあり、自分の父親の財産についてまで気が回らず、いずれ起こる遺産相続についても、なにも対策を考えてこなかったそうです。
去年の秋、父親が体調を崩したのをきっかけに重病が発覚し、主治医から余命宣告をされたため、父親の財産管理をしている顧問税理士に事情を話し、相続の申告や対策について相談を持ち掛けました。ところがその税理士は、父親と長年のつきあいがあったにもかかわらず、体調を気遣う言葉もなく、税金関係の質問にもまともに回答してくれませんでした。篠田さんは、税理士のそっけなく冷たい対応にショックを受け、もう頼ることができないと考え、筆者のところに相談に見えたという経緯があります。
財産と家族の状況
●依頼者 :篠田さん、40代、会社員
●被相続人:父親
●相続人 :配偶者(依頼者の母親)、長男(依頼者)
●資産内容:自宅不動産、賃貸マンション、貸し駐車場、預貯金、有価証券、保険
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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