資産家の父親の死後、ひとり息子が遺産の内容を洗い出していると、押し入れの奥に、母親と自分、そして3人の孫それぞれの名義の預金通帳があるのを発見。しかも合計金額はおよそ5000万円という大金です。父親名義の預貯金も同程度あり、これらの扱いに悩んでしまいます。いったいどうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

押し入れの奥の、見慣れない「手提げ金庫」

篠田さんと母親は、自宅や収益不動産についてはおおよそのことを把握していましたが、父親の預貯金や有価証券、保険についてはほとんど概要を知らされておらず、なかには存在自体を知らなかったものもありました。そのため、財産の洗い出しは大変な作業でした。その流れで、縁もゆかりもない地方都市に複数の土地を所有していたことが判明するなど、予想外のこともありました。

 

 

戸惑いながら関係書類の整理を進めていると、父親の寝室の押し入れの奥から、厳しかった父親に似つかわしくない、宝箱のような形状のかわいい手提げ金庫が出てきました。中を開けると、篠田さん名義の見慣れない通帳が入っています。ほかにも、母親、篠田さんの長男、長女、次男の銀行の通帳も見つかりました。篠田さんにはさっぱり心当たりがないため、改めて調べてみると、どうやら父親は家族に内緒で、賃貸収入の一部をずっと積み立てていたようなのです。つまり名義貯金です。

 

名義にかかわらず、被相続人(ここでは父親)が資金を拠出しているなど、被相続人の財産と認められるものは、相続税の課税対象とされています。相続人名義の貯金であっても、そのお金の出所が被相続人の財産と認められるなら、相続財産として申告しなければなりません。

注意が必要な「名義預金の取り扱い」

通帳の金額を確認し、家族全員分の名義預金を合計すると約5000万円になりました。それ以外にも、父親名義の預金が5000万円以上あります。

 

篠田さんと母親は、この貯金をどうするべきか、考え込んでしまいました。しかし、今回の相続財産の規模からして、このままではかなりの確率で税務調査が入ると想定されます。そうなれば、修正申告の際に過少申告課税が加算され、さらに納税額が増えてしまいます。篠田さんは、税理士の名義預金であるとの指摘に対し、即座に「もちろん申告します」と答えました。

 

筆者の経験上、修正申告の大半は、現金・預金の申告漏れのケースです。今回と同じ「名義預」は、とくに目を付けられやすいといえます。お金の動きは金融機関を調べればすぐわかってしまうため、現金・預金の調査によって修正申告に持ち込まれるパータンが多いのです。

 

篠田さんと母親は、筆者が紹介した税理士のアドバイスどおり、すべての名義預金を父親の預金として申告しました。そもそも自分で努力して得た財産ではありませんし、また、税務調査が入る数年間を不安な気持ちで過ごすのも大変なストレスです。

 

「父が黙って積み立ててくれていた財産ですから、父のものとしてきちんと申告します。事前にある程度の相続対策をしておくことは可能だったのだと思いますが、現状ではこれがベストな選択肢だと思います」

 

「相続税は父の金融資産から支払うことができましたし、母の老後の収入も十分確保できているため、問題ないと考えています。僕はこれからもずっと、体の弱い妻を守っていかなければなりませんし、いまは高齢となった妻の両親にもサポートが必要です。それに、将来ある子どもたちも3人います。父なりにいろいろ考えてくれたのでしょう。本当に愛情深い父だったと、改めて感謝しています」

 

上述したように、税務調査で調べられる財産は現金・預金が多いため、注意が必要です。重要となるのは、口座の名義自体ではなく、そもそもの預金のお金がだれの資産であるか、という点です。

 

今回のケースのように、口座の名義が配偶者・子・孫であっても、被相続人の資産がもとになっているのであれば、被相続人の財産とされます。それ以外にも、専業主婦が数千万円も預貯金を持っているような場合も名義預金を疑われることがあります。個人の財産か名義預金かを調べるため、税務署が被相続人や相続人の収入・財産等を調査することもあります。

 

また今回、篠田さんが弊社に相談に来られたきっかけは、頼りにしていた父親の顧問税理士がしっかりと対応してくれない、という不安がきっかけでした。一般の方にはあまり知られていませんが、税理士にも得手不得手があり、だれに依頼しても同じというわけにはいきません。相続税の申告を行う際には、税理士選びも慎重に行うべきだといえます。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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